【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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明かされる真実編

9.そんな馬鹿なと言うに値する話(1)

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 渡り人の逸話。この世界でどれだけ広まっているかは知らないが、クリス王国には幾つか存在している。その中に一つだけ、渡り人が主人公ではないものがある。渡り人を食らうことで力を得ようとした、愚かな大帝ザラスの話だ。

 ホウライの肉を食えば不老不死。クンルンの肉を食えば不朽不滅。

 いつ、誰がそのような話を出したかについては分かってはいない。

 ただ、ザラス大帝は実際に存在し、ホウライとクンルンを捕らえ、その血肉のすべてを食らったことが記録として残っているという。

 何も得られず衰弱死したという記録と共に。

 ザラス大帝は悲惨な結末を迎えるが、それでもこの話は渡り人の血肉に特別な効果があると思い込ませる一因となっている。

「――というような話は聞きました」

 俺が話し終えると、ギーはコートのポケットに突っ込んだままだった左手を出して、ゆったりと拍手した。

「そうそう、そこまで覚えてりゃ大したもんだ。それが一般的に出回ってる話。ただ、今の話の中には間違いがある。こいつは、ほとんど知られてない事実だが――」

「え……?」

 俺は耳を疑った。「」とギーは言ったのだ。

「それは、渡り人が、渡り人の肉を食べたってことですか?」

「まぁ、そりゃ驚くわな。でも違うんだなー。そこじゃないのよー」

 これだけ赤裸々で残酷な話の中で、何故ザラスが渡り人だという部分だけが伝わっていないのか。そこに着目するようにギーは言う。

 言われてみれば、確かに。むしろ渡り人ではないと強調しているように思えた。

「これね、隠された理由があんのよ」

 ギーが煙草を深く吸い込み、濃い煙を吐き出しながら悪い顔をする。

「なぁ、坊や、ザラスが『食べたと同じ力を得る』能力を持ってたって話は知ってるかい?」

 俺は「はい」と首肯する。

 以前、フィルからそういう話を聞かされたことがある。それがこれからどう繋がるのかと思い、黙って続きを聞いたが、あまりに突飛な内容に俺は眉をひそめた。

 ステボには表示されないが、渡り人であれば誰でも最初から『食べたものと同じ力を得る』能力を所持している。そうギーは言い切ったのだ。

「いや、そんな馬鹿な。俺、もうこっちでかなり色々と食べてますけど、それだけで強くなったりしてませんよ?」

「そりゃ当たり前。さっき言ったろ? 『食べた』と同じ力を得るって」

 ギーいわく、渡り人が食べて力を得られる対象は他者。ただし、獣人含む亜人種のみ。それもまたザラス大帝の逸話が示唆しているという。
 
 
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