【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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明かされる真実編

8.災厄を連れた最悪(4)

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「こっちに向かってるってことは、坊や、クリス王国に所属してる訳ね。てことは、リンドウに保護された口か。そうかそうか、なるほどねー」

「ん、ギーよ、もう良いぞ」

 は⁉

 ニルリティの声が聞こえて俺は思わず顔を向ける。服は破れていたが、胸の傷は跡形もなくなっていた。ギーとニルリティが顔を見合わせ苦笑する。

「すまんのう、手を煩わせてしもうた。まさか胸を貫かれるとは思わなんだわ」

「ああ、俺ちゃんも驚いちゃったよ。この坊や見どころあるんだけどね。に俺ちゃんの悪口聞かされちゃってるだろうから、こっちに引き込むのは難しそうだ」

「ふふ、ならば食うしかあるまい」

 ニルリティが愛おしそうにギーの頬を撫でる。だが、すぐに眉をひそめ「あぶらっぽいのう!」と叫ぶように言い放つ。そしてギーのコートで手を拭う。

 それが気に食わなかったのか、ギーが「そーれ」とニルリティを放り投げ、してやったりとばかりに片側の口角を上げて鼻を鳴らす。

「ひゃあっ⁉」

 そんな可愛らしい悲鳴を上げたものの、ニルリティはすぐに翅を開き、凄まじい加速で俺とギーの間に割り込んでくる。ただ、俺には目もくれない。

「何をするか脂性あぶらしょう!」

「お前が死にかけて脂汗が浮いたんだよ」

「嘘をけ! 白々しい!」

 二人が痴話喧嘩をしている間に国境が近づいてきた。想像していたよりも遥かにふざけている。これはどうにかなりそうだ。

 ふと、ニルリティがこちらに手を向けた。

「ここまでじゃ」

 とてつもない重圧で息ができなくなる。突如訪れた戦慄に耐え切れず、俺は顔の前で両腕を交差させ防御姿勢を取る。が――。

 駄目だ! 受けたら死ぬ!

 予感に従い、急停止する。目の前で風を切る音が聞こえた。【風刃】だと理解した直後、街道脇の森でバキバキと音が鳴った。何本も木が倒れ、海までの道ができる。

 その規格外の威力に唖然とする。

「ちっ、勘が良いのう」

「馬鹿、やりすぎだよ。お前の【極風刃キョクフウジン】なんて、当たりどころが悪かったら俺ちゃんでも死ぬぞ」

「なんじゃ? 殺す気はないのか?」

「そんなの最初からないってのよ。生け捕りつってんじゃない。じゃなきゃボウガンなんて使わんでしょうに、まったく。なぁ、坊や、俺ちゃんの話をちょっと聞いてくんない? というか、聞いてもらわんと殺すしかなくなるんだわ」

 止まったのは失敗だった。二人が立ちふさがり、先へ進めそうもない。かといって立ち向かうのは自殺行為。国境から遠ざかるリスクを負って逆方向に逃げたとしても、この二人をけるとは思えなかった。

 これはもう、話を聞くほか選択肢はなさそうだ。俺は溜め息を吐いて何度か頷いた。

「聞くだけで良いなら」

「勿論、それで構わない。ついでに言うと、そんなに長くもない。ほんの十分二十分程度だ。雨も降りそうだからね。時間は取らせないよ」

 物腰柔らかに言い終えるギーの横で、ニルリティが「前置きが長いのう」と言って欠伸をする。ギーは呆れたように肩を竦め、【異空収納】から煙草を取り出して咥える。火術を使ったのか、何もしていないのに、じりじりと煙草の先端が燃える。

「んじゃ、まずは質問からだ。坊や、ザラス大帝って、聞いたことあるかい?」

 紫煙を吐き出してからギーが言った。

 話は、かつて聞いた残酷な逸話の知識確認から始まった。
 
 
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