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明かされる真実編
7.災厄を連れた最悪(3)
しおりを挟む問題はあのボウガンだが……。
それは後で考えることにした。相手が油断している今のうちに動いた方が、逃げ延びられる可能性が高いはずだ。
二人はこちらに目もくれない。痛みは既に引いたので、俺は計画通り【疾風】を発動した。
また背後からボウガンで狙うとしても、まだ矢は装填されていなかった。その分の時間は稼げる。いや、そうじゃない。既に装填済みのボウガンが【異空収納】に収められている可能性もある。なら――。
素早く振り返る。二人が追いかけてきていた。案の定ボウガンを構えている。俺が止まると同時に矢が放たれた。
それを狙ってたんだよ!
俺は飛んでくる矢を【陰盾】に吸わせる。並んで飛んできたもう一本は体をずらして躱した。
「お? なんだ今の?」
「珍妙な術じゃな。これは是非ともいただきたい」
ニルリティがゾッとする笑みを浮かべる。そしてペロリと舌なめずりしたかと思うと既に目前にまで迫っていた。引き絞られていた右腕が突き出される。
速っ⁉
心の呟きも遅れた。声を出す間もない。だが、どうにか目で追えた。それだけでなく、俺は反射的に【陰陽盾】を展開できていた。
考えるより先に対応は済んでいた。体が防衛本能に従って動いてくれたような感覚に驚く。ニルリティが伸ばした手が【陰盾】に吸い込まれ、胸の前に出現した【陽盾】から矢と共に排出される。
「ぐぶっ」
ニルリティは、矢と共に放たれた自分の手刀で胸を刺し貫いた。口からどぷりと血が吐き溢れる。俺はそれを尻目に西へと飛ぶ。
あ? というギーの声が背後で聞こえた。何が起きたか分からない。そう言いたげな一音に、俺は千載一遇の好機を見出した。
故意ではないにしろ、俺はニルリティに深手を負わせた。あれは間違いなく致命傷になる。ギーは今、その確認や救命に時間を割いているはず。
ここが勝負どころ。逃げ出す絶好の機会だ。そして大失敗でもある。追い掛けてくる前に距離を取らなければ、俺は殺されてしまうだろう。
いや、恨みを買った今、そう簡単に殺されはしない気がする。
かつてリンドウさんから聞いた言葉が思い出される。生きたまま血を抜かれ、肉を削いで売られる。そういう結末が待っているかもしれない。
汗が風に流れて飛んでいく。鼓動は怖ろしいほどに速くなっているのに、送られる血液から温もりは感じられず体が冷えていく。
背後で冥界の門が開き、そこから真っ白な手が伸びてきているような悍ましさがずっと続く。止まれば、あっという間に掴まれてあちらに引き込まれてしまう。そういう確信めいたものがある。
「おーい、坊や」
気の抜けた柔らかい男声が真横から聞こえた。俺は心臓が口から出るのではないかと思うほどに驚き、即座に進行方向を変えた。だが視界の端にニルリティを抱えたギーが入り込んでくる。振り切れそうもなく、泣きたい気分で顔を向ける。
「ちょっとだけ、俺ちゃんと、お喋りしない?」
俺は返答しなかった。話して状況を好転させる自信など欠片もない。
「だんまりか。つれないね」
くそっ、どうにか振り切れないか!
急降下し、街道の上に出る。隣にはギー。しっかりとついてくる。ただ、攻撃はしてこない。両手がニルリティで塞がっているのと、俺の【陰陽盾】を警戒してのことだろうが、じっと見つめられているだけでも相当な重圧を感じる。
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