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明かされる真実編
3.知らされぬ脅威を知り愚か者と知る(3)
しおりを挟むあー、そうだ、忘れてた。
宿に言伝頼んでおけば良かった。今日は帰れないかもしれない。
しまったな。と心で呟いたとき、黒い旗を掲げる砦を見つけた。接近して確認すると、金と銀の刺繍で、絡み合う二匹の蛇が描かれているのが判然とした。
フィルに教えてもらった通りだな。
随分前に絵に描いてもらったことがある。あれがラグナス帝国の国旗で間違いない。青い生地の中心に十字星が描かれたクリス王国の旗と比べるとやはり禍々しく見える。
何故わざわざ悪を連想させる国旗にしているのかという疑問はさておき、鬨の声が上がっているので視線を移す。と、砦の裏手で大勢の兵士が陣形を組んで向き合っているのが見えた。どうやら演習中のようだ。
魔の森の端が切り開かれて作られた練兵場と思しきその場所で、号令と太鼓やラッパの音に従い軍隊が陣形を変えていく。前列と後列の入れ替わりが早く、素人目にも、かなり統率が取れているように見えた。
なんて数だよ……。
陣形の一角をざっと数えて、その纏まりで全体の人数を割り出す。うんざりして途中で止めたが、片側だけでおおよそ二万人はいた。
全部で四五万……。
ナッシュとクロエさんが上げた『不穏な動きがある』という報告はおそらくこのことだろう。俺は詳細を聞かなかったが、エドワードさんの耳には入っているはずだ。
だが肝心のウェズリーの街には情報が届いていない。工作員が伝達を阻害したからだ。俺はそれを嫌がらせ程度にしか捉えていなかったが、大軍を目の当たりにして認識を改めた。そして自分が如何に愚かだったかを思い知った。
「これは駄目だよな。絶対」
放置すれば、戦争開始と共にこの大軍が押し寄せてくることになる。すべてではないだろうが、自然要塞を突破する為に第一陣として半分は攻め込んでくる気がする。
対して、ウェズリーの街では何の対策も講じられていない。そればかりか、今は混乱の只中。話にならない。
俺が見た限り、ウェズリーの正規兵は一万人もいない。訓練はしているようだが、数が違いすぎる。とはいえ、今から徴兵、または募兵したところでさして意味はないように思う。たった数日の訓練では、ここまでの練度がつく訳がないのだから。
実際はどうか分からないけど、正規兵の練度も怪しいよな。
衛兵や門兵として働いている彼らは、街中のちょっとした諍いや魔物の対処が主な業務だ。聞いた話では帝国軍と小競り合いをしたのは随分と前。戦争を想定した軍事演習を行う頻度は低いかもしれない。
これはもう、しょうがない。
俺は腹を決めた。少し脅かすだけのつもりだったが、その程度ではこの数を撤退させることはできそうにない。もう、死人が出るのを覚悟してあれを使わないと駄目だろう。解除が遅れると、自然災害に発展してしまうあの術を。
頼むから、とっとと逃げてくれよ。人が死ぬのは見たくないからな。
深呼吸した後で、砦に狙いを定めて【竜巻】を放つ。
下から旋風が巻き起こり、上からは雲が伸びてくる。か細い渦が徐々に膨れ上がり、あっという間に砦が竜巻に覆われて見えなくなる。
こうなると、もう術を解除しても消えない。自然消滅を待つばかりだ。
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