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明かされる真実編

1.知らされぬ脅威を知り愚か者と知る(1)

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 外は雲が濃くなっていた。軽く見上げて【浮遊】と【疾風】で空をける。向かうのは東。遥か向こうの空で稲光が走る。

 遠雷。遅れて届く音に、俺は眉根を寄せる。【障壁】があるので雨に濡れることはないが、雷に打たれれば無事では済まない。

 急いだ方がよさそうだ。

 時刻は午後五時。夕暮れ間近なので元々悠長にするつもりはなかったが、より気がいた。ただ、何故かそんなときほど邪魔が入るもので、ウェズリー山の稜線を越えたなり、キィキィという甲高い鳴き声と羽ばたく音が耳に入った。

 動きを止めて振り返ると、眼下に広がる樹海、魔の森からハーピーの群れが飛び立ちこちらに向かってきていた。

 体が羽毛で覆われた醜悪な顔つきの美女。両腕が翼で、上半身は女性的な魅力のある裸体。胸は水着のように羽毛で覆われているので視線が奪われないのは助かる。下半身は猛禽類のそれ。足指そくしの先に鋭い鉤爪かぎづめを持ち、近寄ると腐臭がするらしい。

 相当臭いって、ヤス君が言ってたな。気が滅入ってるときに嗅ぎたくないんだが。滅入ってなくても、そんなの嗅ぎたくないのに。汚女ってキツいよな。

 フィルによると、糞尿を掛けてくることもあるそうだ。

 それによって辺りに病気を撒き散らすそうだが【無病息災】持ちの俺たち渡り人からすると、空飛ぶ変態糞便愛好女子アブノーマルスカトロガールでしかない。

 考えてみれば、鳥は所構わず糞尿を落とす。鳥として見れば普通のこと。外見が美女というのが、こちらに変な想像をさせているだけだと解釈。なんにせよ最悪。

 数は十を超えている。山肌が露出しているクリス王国側と違い、こちら側は魔の森にむしばまれるように、山のふもとから中腹にかけて樹木で覆われている。

 そこに巣があるのか、ハーピーが次々と飛び出し数を増やしていく。様子を見ている僅かな間に、総数は二十を超えていた。

 相手にする気はなかった。だがこんな数を見てしまった以上は放置する訳にもいかない。俺は冒険者だ。規約の上では討伐か報告の義務がある。

 そんな規約、ほとんど誰も守ってはいないだろうが、できる力がある以上は果たしておきたい。それを怠ったことで、誰かが苦しむのは寝覚めが悪いから。

 同じ性癖を持つ誰かが喜ぶのはもっと嫌ってのもあるけどな。

 俺はハーピーの群れが一直線になるように位置取り、両手を前に突き出す。そして、すべてが射線に収まったのを確認後、即座に魔力を溜めて【迅雷砲】を放った。

 一瞬の閃光の後、ズガァンという爆音を響かせ、太く黄色い稲妻の帯がハーピーの群れを飲み込んだ。光が消えた後には無惨に焼け焦げた死骸だけが残る。

 それらが魔の森に落下していくのと、飛び立ったばかりで射線に入らなかった数羽のハーピーがきびすを返すのを眺めてから、俺はまた東に向かって飛んだ。

 しかし、かつて今日ほど忙しい日があったろうか。

 カナン大平原でサブロの成長確認とスキル借り受けの実験後、サブロと女子たちに鍛練を指示、それから悪ガキ共を追い掛けてルードの正体を知り、ダンジョンでイザベラに深刻な後遺症を負わせ、今は変更した予定を元に戻そうとしている。

 変更した予定——ラグナス帝国を滅ぼす。

 朝食時にフィルとサクちゃんに話したことは冗談でも何でもない。俺は今朝、サブロとスキルの確認を済ませた後で、その取っ掛かりをやってこようという気でいた。【精神感応】がもたらしたヤス君とサーナの夢を見て思うところがあったからだ。
 
 
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