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それぞれの成長 元戦乙女隊編

29.誰であろうが死ぬときは死ぬ(3)

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 いや、まだだ! 諦めるな! 絶対に助けるんだよ!

「くそっ!」

 油断していた。すぐにイザベラを地面に寝かせ、首から飛び出た骨を押し戻し、位置を整えながら全力で回復術と【殺菌光】を掛ける。時間の確認の為にステボも開く。

 首が済んだら顔と背骨にも同じようにする。水球で血を洗い流して傷の状態を確認しつつ、全身に満遍なく回復術を掛け続ける。

 傷は塞がったが、まだ終わりじゃない。脈を確認する。ない。呼吸もしていない。

「戻ってこい! イザベラ!」

 イザベラの鎧を乱暴に脱がし、下に着こんでいたクロースアーマーの上から回復術を掛けつつ心臓マッサージをする。これなら肋骨が折れようが問題はない。とにかく脈が触れるまで繰り返す。並行して、人工呼吸も繰り返す。

 同時にやれたら――そうだ!

 咄嗟の思いつきで、念動力でイザベラの心臓を直接マッサージしながら人工呼吸を行う。念動力だと手応えがないのでマッサージの実感がない。分けてやるのと、どっちが良いのか分からない。応急処置の講習は何度か受けた。やり方は合っているはずだが。

 くそっ、何が正解か判断できん。合ってるよな。念動力じゃ弱すぎるか?

 ステボで時間を確認する。そろそろ二分経過する。まだ脈も呼吸も戻らない。

 こんなときAEDがあれば――あ! 俺は馬鹿か! あるじゃないか!

 イザベラのクロースアーマーを捲り上げ、腹を露出させる。服の中に手を入れ、胸の中心に当てて【迅雷】を軽く放つ。イザベラの体がビクンッと跳ねる。

 頼む! 戻ってこい!

「がっ、がはっ」

 床に背中が落ちた直後、イザベラが顔をしかめてゲホゲホとせた。

「イザベラ!」

 叫ぶような声を重ね、女子たちがイザベラを囲む。

 どうやら既に討伐は終わっていたらしい。俺の邪魔にならないように、遠巻きに見ていたのだろう。集中しすぎていて気づかなかった。

 泣き声や、怒ったような声。彼女たちが興奮状態だからか、それとも俺が放心しているからか、何を言っているのか上手く聞き取れなかった。

 俺は床に大の字になって寝ころんだ。真っ白な天井を見ながら、荒くなった息と鼓動を落ち着かせる。冷たい汗で、顔と体が濡れていることにようやく気づく。

「ユーゴ! ありがとう! 本当にありがとう!」

 エリーゼが泣きながら俺の半身を抱き起して、そのまま抱擁する。ニーナも声を殺して泣きながら抱き着いてきた。視界には、イザベラの頭を膝に載せて介抱しているレノア。彼女もまた、血溜まりの中で泣いていた。

 それから、一時間が過ぎた――。
 
 三十階層でイザベラが息を吹き返した後、俺たちは転移装置を使ってダンジョンを脱出した。命を救ったことに感謝はされたが、複雑な気分だった。重度の後遺症が残ることが、回復術を使っている段階で分かっていたからだ。

「すまん、イザベラ」

「なんでユーゴが謝るんだよ。ヘマやらかしたのはアタイだぜ?」

 イザベラが苦笑して言った。今は自室のベッドに横になった状態で、エリーゼが【異空収納】から取り出した何本目かの造血剤を飲んでいる。

 顔色は随分と良くなったが、顔の左側、額から頬にかけて、潰されたときに出来た大きな痣が残ってしまった。何度回復術を掛けても消えず、またそれ以上に酷いことが起きていた。

 イザベラは首から下がまったく動かなくなった。俺の判断が甘かった所為で。
 
 
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