上 下
360 / 409
それぞれの成長 元戦乙女隊編

24.成長する英雄(4)

しおりを挟む
 
 
 ここだっ!

 一瞬で距離が詰まり、視界がレイジトロルの腹で埋まる。そのタイミングで【迅雷球】を流動させて右拳にまとわせる。【障壁】が割れて右拳に激痛が走るが止まらない。高速推進の勢いそのままに【剛力砕波】を打ち込む。

「ぬっ――ああああっ!」

 レイジトロルの腹に拳がめり込み、稲妻がほとばしる。手首から肩に凄まじい負荷。重い。時間が遅い。まだ一秒も経ってないのが感覚で分かる。突き出した拳が、意思と切り離されたように振り抜かれる。

 ドパァンと水袋が破裂したような音が響き、レイジトロルがぜて吹き飛んだ。辺りに帯電して煙を上げる血と肉片が散乱する。が、階層主の特徴通り、焦げ臭さの混ざったえた臭気と共にすぐに消失した。

 それを見届けた後で、風術推進と【浮遊】を解除し着地する。もうかなり扱いに慣れてきた。慣性で体が流されるようなこともない。

 ふぅ、と息を吐くと同時に「すげえええ!」という叫び声が背後から上がった。

 振り返ると、イザベラが駆け寄ってきていた。目を輝かせて、興奮しているのが一目で分かる。その後ろには女子三人も続いているが、こちらは目が点。

「すげえ、すげえ、すげえ! 階層主が一撃だ! ユーゴ! なんなんだ今の⁉」

「新術と戦技の組み合わせ。【剛力砕波】っていう、拳の打撃威力が十倍に跳ね上がる技と、空を飛ぶ術の加速と電撃を放つ術の威力を合わせてみた」

「十倍、電撃、加速……」

「アタクシ、ユーゴさんが稲妻になったようにしか見えなかったのですけど……」

「ま、正に疾風迅雷だな」

「あ、それいいな! エリーゼ、この術は【疾風迅雷シップウジンライ】って名前にするよ!」

 三種派生させた時点で【迅雷】の名は消えていたが、拳に纏ったものは球ではないので、そういう曖昧な状態をすべて【迅雷】と呼ぶことにした。ついでに風術推進を使った高速移動を【疾風シップウ】と名付けた。その方が楽だ。

 右手を握ったり開いたり、肩を回したりしながら状態を確認する。グローブは無事だが、打ち込んだ瞬間はかなり痛かった。拳は【迅雷】をまとった時点で【障壁】が破壊されて焼けるように熱かったし、【剛力砕波】は拳から手首、腕、と順番に骨が割れていくような痛みを感じた。

 打ち込んだ後ですぐに回復術を使ったからなんともないが、明らかに一撃必殺型の技だと思う。これは、ここぞという場面でしか使えないだろう。

 でも【疾風迅雷】だけだったら、問題はないかな。

 要は【障壁】を厚く張って、電撃に耐えうる強度を保てれば良い訳だから……。

 考えながら体に【障壁】と【迅雷】を纏わせてみる。すると全身に細かな稲妻が走り帯電状態になった。

「お、おいユーゴ、お前、もう神様だぞ、それ」

「ああ、最早もはや、雷神だな」

「凄い、かっこいい!」

「こっ、ここまでくると、もう、早くもらってくださいとしか言えませんわね!」

 レノアがおかしなことを言うので、女子たちがまた興奮状態になった。わいわいやっているのを苦笑して眺めているうちに【障壁】が耐久限度を迎えて俺が感電。制御を誤った結果、周囲に放電。女子たちも仲良く感電した。 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...