【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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それぞれの成長 元戦乙女隊編

19.イワンコフスピーチで感銘を受けた乙女(1)

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 食事が済み、女子たちと会話を楽しみながら諸々【異空収納】に放り込むだけの簡単な後片付けをする。それはとても穏やかで平和な時間だった。が、その平穏を裂くように勢いよく出入口の扉が開かれた。

「がっはっはー! おったな、ユーゴ! 一戦受けてもらうぞい!」

 無骨な板金鎧に身を包んだイワンコフさんが上機嫌な様子で現れた。見るからに模擬戦をやる気満々な格好だったので思わず苦笑い。

 いや、『後で行く』とは聞いていたけれども、あんたも参加するんかい。

 女子たちは慌てて整列し直立。幸せな時間はつゆと消える。

 というのが普通なのだろうが、生憎あいにくと俺は普通ではない。相手が誰であろうが、出来ないことは出来ないとはっきり言うと決めている。

 既に予定が組み上がっている上に昼食をとったばかり。正直、戦ってはみたいのだが、先のことを考えるとよろしくないので丁重にお断りした。

「うむー、そうか、昼飯を食ったばかりだったか。それはしょうがないのう……」

 イワンコフさんは肩を落として帰っていった。常在戦場だとか言い出しそうな気がしていたから意外だった。物分かりが良くて助かる。

「何だよー。断るのかよー。アタイは見たかったのにー」

「横っ腹が痛くなるのは嫌なんだよ。激しく動いたら気持ち悪くなるし」

「あらそれ、イワンコフ様も同じことを仰ってましたわ。食後に魔物から襲撃を受けて酷い目に遭ったというのを、選抜試験のときに壇上で」

「うん。長時間の、安全確保、できないようなら、食べない方が、いいって」

「常在戦場の気構えだな。私も覚えている。あれは良い話だった」

 やっぱり言ってたんだ。でも自分の失敗談から学ばせてるってところが説得力あって好感が持てるよな。

「あー、あれかー。へへへっ、脱糞して難を逃れたってやつ」

 おおう、そんなことまで話したか。だけど意味が分からん。なぜ脱糞で難を逃れることができたのか。これは非常に気になる。

「ごめん、ご飯食べたばっかりでそういう話を広げるのはどうかと思うんだけども、詳しく訊いてもいい? まさかとは思うけど、魔物が臭いで逃げたとか?」

「ええ、信じ難い話ですけれど、魔物どころかパーティーメンバーにまで逃げられたそうですわよ」

「しばらく、イウンコフって、呼ばれてた、らしい」

 俺は口許を手で覆ってうつむく。真面目な顔でなんてことを言うのか。

「ユーゴがそうなる気持ちは分かる。私たちが聞いた時も皆笑っていたしな」

 だが――。と、エリーゼがイワンコフさんのスピーチを暗唱する。

『命を落とすくらいなら笑い者になれ。恥も外聞も捨ててしまえ。腹が苦しければ踏ん張れ。どうにかひねり出せ。音など気にするな。臭いも気にするな。スッキリすればまだまだ戦える。汚れは後で洗い落とせば良い。なりふり構わず生き抜け』

「というイワンコフ様の言葉には感銘を受けた。こと戦闘において生に執着することが如何いかに重要かを教えられて気が引き締まったよ」

 イワンコフさん、あなたという人は……。
 
 
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