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それぞれの成長 元戦乙女隊編
17.おじいちゃんさっき食べたでしょ(1)
しおりを挟む昼食の準備を済ませるとほぼ同時に、訓練場に向かう扉が開き、身綺麗になったイザベラが顔を出した。部屋に入るなりハッとした顔をして目を閉じ息を吸い込む。
「うあー、良い匂いだなー」
「ハハハ、そりゃどうも。どう? 食べれそう?」
「当然。もう涎が出てきてるよ。ユーゴの飯は特別だって忘れてたぜ」
全員着替え終わったかを確認しようとしたが、その前に女子三人が中へ入ってきた。皆、イザベラと似たような食欲を刺激されたような顔をする。
「これは、ほっとする香りですわね」
「不思議。お腹が鳴った」
「ハハハ。犬が落ち込んでるみたいな可愛い音だったな」
それを言い終えると同時にエリーゼのお腹も鳴った。クルックーという鳩の鳴き声のような音だった。一瞬の静寂の後で、女子たちが爆笑。
エリーゼは顔を真っ赤にして涙が出るほど笑っていた。自分のお腹が鳴っただけでこんなに笑えるというのは素晴らしいことだと思う。
これが俗に言う、箸が転んでもおかしい年頃というやつなのかもしれない。他愛もないことで笑えるというのは素敵だ。
お嫁さんにするなら、どれだけ歳を重ねてもこんな些細なことで笑える人が良いんだろうな。と、エリーゼを見て本気で思ってしまう。
ただそれは、飽くまでそう思ったというだけに過ぎない。決してエリーゼに対して恋心が芽生えたという訳ではない。俺にはそういう感情が湧くことがない。
とはいえ俺も普通の男なので、そういったことに興味がないと言えば嘘になる。レノアの柔らかさで実証済みだが、鼓動は高鳴るし反応もする。彼女たちを受け入れて、そのまま関係を持つことだって、できなくはない。
だが、いつも俺の頭にはフィルが一番にいる。放っておけないというか、保護してやらないといけないというか。そういう庇護欲が掻き立てられる。
今後、ヤス君とサクちゃんとは別行動になることが多くなると予想している。そんな中で、俺まで好意を寄せる人を受け入れてしまったら、フィルはどうなるのか。
そういう思いが、いつもついて回る。それに――。
思い浮かべて、すぐにかぶりを振る。フィルの所為にしたが、多分、一番の理由は元の世界にある。俺は、何も見届けず、何も知らないままで、自分だけが誰かと幸せに過ごすことが許せないんだと思う。
後悔先に立たず。いつでも構わないという思いが、大きな心残りを作った。それを今更どうにかしたいなんて虫が良すぎる。だが、それでも、彼女が今どんな暮らしをしているのかを知りたいと切望している。
そして、俺はそれだけの為に帰りたいと思っている。帰りたいんだ。やっぱり。
この世界での恋愛に踏み出せないのは、それが足枷になっているから。いや、違う。俺は多分、成長した彼女と暮らしたいと考えている。そういう空想を描いている。
側にいてあげたかった。それが叶わなかった幼い頃の思いが、いつまでも消えずにくすぶっている。どれだけ歳を重ねても、こんな状況になっても、未だに。
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