【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

文字の大きさ
上 下
353 / 409
それぞれの成長 元戦乙女隊編

17.おじいちゃんさっき食べたでしょ(1)

しおりを挟む
 
 
 昼食の準備を済ませるとほぼ同時に、訓練場に向かう扉が開き、身綺麗になったイザベラが顔を出した。部屋に入るなりハッとした顔をして目を閉じ息を吸い込む。

「うあー、良い匂いだなー」

「ハハハ、そりゃどうも。どう? 食べれそう?」

「当然。もうよだれが出てきてるよ。ユーゴの飯は特別だって忘れてたぜ」

 全員着替え終わったかを確認しようとしたが、その前に女子三人が中へ入ってきた。皆、イザベラと似たような食欲を刺激されたような顔をする。

「これは、ほっとする香りですわね」

「不思議。お腹が鳴った」

「ハハハ。犬が落ち込んでるみたいな可愛い音だったな」

 それを言い終えると同時にエリーゼのお腹も鳴った。クルックーという鳩の鳴き声のような音だった。一瞬の静寂の後で、女子たちが爆笑。

 エリーゼは顔を真っ赤にして涙が出るほど笑っていた。自分のお腹が鳴っただけでこんなに笑えるというのは素晴らしいことだと思う。

 これが俗に言う、箸が転んでもおかしい年頃というやつなのかもしれない。他愛もないことで笑えるというのは素敵だ。

 お嫁さんにするなら、どれだけ歳を重ねてもこんな些細なことで笑える人が良いんだろうな。と、エリーゼを見て本気で思ってしまう。

 ただそれは、飽くまでそう思ったというだけに過ぎない。決してエリーゼに対して恋心が芽生えたという訳ではない。俺にはそういう感情が湧くことがない。

 とはいえ俺も普通の男なので、そういったことに興味がないと言えば嘘になる。レノアの柔らかさで実証済みだが、鼓動は高鳴るし反応もする。彼女たちを受け入れて、そのまま関係を持つことだって、できなくはない。

 だが、いつも俺の頭にはフィルが一番にいる。放っておけないというか、保護してやらないといけないというか。そういう庇護欲が掻き立てられる。

 今後、ヤス君とサクちゃんとは別行動になることが多くなると予想している。そんな中で、俺まで好意を寄せる人を受け入れてしまったら、フィルはどうなるのか。

 そういう思いが、いつもついて回る。それに――。

 思い浮かべて、すぐにかぶりを振る。フィルの所為せいにしたが、多分、一番の理由は元の世界にある。俺は、何も見届けず、何も知らないままで、自分だけが誰かと幸せに過ごすことが許せないんだと思う。

 後悔先に立たず。いつでも構わないという思いが、大きな心残りを作った。それを今更どうにかしたいなんて虫が良すぎる。だが、それでも、彼女が今どんな暮らしをしているのかを知りたいと切望している。

 そして、俺はそれだけの為に帰りたいと思っている。帰りたいんだ。やっぱり。

 この世界での恋愛に踏み出せないのは、それが足枷あしかせになっているから。いや、違う。俺は多分、成長した彼女と暮らしたいと考えている。そういう空想を描いている。

 側にいてあげたかった。それが叶わなかった幼い頃の思いが、いつまでも消えずにくすぶっている。どれだけ歳を重ねても、こんな状況になっても、いまだに。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

流星痕

サヤ
ファンタジー
転生式。 人が、魂の奥底に眠る龍の力と向き合う神聖な儀式。 失敗すればその力に身を焼かれ、命尽きるまで暴れ狂う邪龍と化す。 その儀式を、風の王国グルミウム王ヴァーユが行なった際、民衆の喝采は悲鳴へと変わる。 これは、祖国を失い、再興を望む一人の少女の冒険ファンタジー。 ※一部過激な表現があります。 ―――――――――――――――――――――― 当サイト「花菱」に掲載している小説をぷちリメイクして書いて行こうと思います!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

処理中です...