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それぞれの成長 元戦乙女隊編
15.鬼教官なんて必要なかったんだ(1)
しおりを挟む「痛てて……」
涙目で呟きつつ、打撲を回復術で癒しながら訓練場に入る。と、壁を背もたれにして青褪めている女子たちと、くたびれたと言いたげな表情で地面に俯せになっているサブロが見えた。
チュニックは鍛練用のクロースアーマーに着替えられており、全員、汗と土塗れ。見るからに疲労困憊している様子。
たった三時間程度にも拘らず、ここまで疲れ果てるというのは異常。一体、どんな模擬戦をしたというのか。
間もなく、俺に気づいた女子たちが顔を歪めて立ち上がった。ふらふらとした足取りで、整列しようとする。サブロも苦しげによたよたと動き出す。
「あぁ、いいよいいよ。楽にしてて」
俺がそう声を掛けると、一気に脱力してまた地面に座り込む。そんな状況を目の当たりにして俺は狼狽える。
失敗した。皆には鬼教官なんて必要なかったんだ。
貴族の娘だから、と彼女たちのことを見くびっていたようだと反省。まさか、ここまで自分を追い込むほどに真面目だとは思っていなかった。
昔、職場で新入社員を教育しているときに似たようなことがあったのを思い出す。コネ入社で金髪というだけで、色眼鏡で見てしまった。実際は誰より真面目で責任感があったのに。
決して要領が悪かった訳ではなかった。だが一生懸命になりすぎた。色眼鏡で見られていることを自覚して、それを払拭しようと余計な仕事まで引き受けていた。
そんな彼を、俺は見誤った。気づいてからは、どうにか助けてやれないかと手を貸したが、俺同様に、周囲にいいように使われるという職場での立ち位置を変えることが難しくなっていた。
彼はそれでもめげなかったが、体を壊して、そのまま退職してしまった。
エリーゼは、彼と似ている。初めて会ったとき、戦乙女隊が周囲からお飾りだと言われていることを悔しがっていた。レノア、イザベラ、ニーナも同じ気持ちだからエリーゼと共にいるに違いない。そんな彼女たちが、不真面目である訳がないのに。
自分で作った轍を踏むって、目も当てられない馬鹿のやることだよな。
不思議に思っていたけど謎が解けた。道理でたった半日の間に何度も壁に衝突する訳だよ。このバカチンが。
「えーっと、昼飯はまだだよね?」
笑ったつもりだが、気まずさが邪魔をして表情筋が強張った。おそらく変な笑顔になっている。そんな状態で頭を掻きつつ訊ねたが、喜んで飛び起きたのはサブロだけで、女子たちには申し訳なさそうな顔を向けられた。
「まだだけど、ごめん、今は食べれないと思う。飲み込む自信がない」
「私も、無理。食べたく、ない」
「アタクシも遠慮しておきますわ。食べても戻してしまいます」
エリーゼ、ニーナ、レノアがそう答える中、イザベラだけは黙っていた。胡座に腕組み。難しい顔で「んー」と唸っている。
俺はその様子を見ながら、サブロの前に【異空収納】から取り出したステーキ入りのバットを置いて「イザベラはどうする?」と返事を促す。
するとイザベラはサブロに視線を向けた。そしてサブロが「グァア!」と嬉しそうに一鳴きし、ガツガツとステーキを貪り始めると、それまでの決めあぐねていた様子を一変、意を決したような顔をした。
「決めた! アタイは食べるよ! サブロに負けてらんねーからな!」
力強い声で言い切る頃には、まるで死地にでも向かうような表情に変わっていた。それに触発されたのか、他の女子たちの目にも力が戻っていく。
「ええ、そうですわね! 食べないと力が出ませんもの!」
「もう、頑張るしか、ない……!」
イザベラが立ち上がり、女子四人が集合。顔を見合わせ頷きあう。
「よし! 気持ちは一つだ! ユーゴ、済まないが食事をお願いできるだろうか? なんとしてでも食べ切ってみせる! なぁ、皆!」
おー! と女子たちが片手を天に突き上げる。
え……なにこれ?
ただお昼ご飯を食べるだけだよ?
君たちどうしたんだ本当に。なんだかおじさん心配になってきちゃったよ。
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