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それぞれの成長 元戦乙女隊編
13.坑道の奥にいたのは(6)
しおりを挟む「あー、もう昼かー」
腕組みして少し考える。ルードの話は気になるが、約束を反故にするのは宜しくない。それに悪ガキ共が邪魔。先に片付けるべきだろう。
「ルード、俺はちょっと用事があるから帰るよ。ついでに、この悪ガキ共を衛兵に引き渡してくる。それが終わったらまた顔を出しても良いかな?」
「いえ、来るのは約束通り、明日の午後にしてください。そこでイノリンと迎えます」
「え、近くにいるの?」
「こっちに向かってるんですよ。僕も起こされついでに出迎えてきます」
ルードが立ち上がる。羽ばたこうとしたので、慌てて「ストーップ」と両手のひらを向けて止め、残りの悪ガキ二人を【過冷却水球】で氷結拘束する。
「ああ、すいません、気が逸りました」
「いや、いいよ。けど随分慌てるね。そうなっちゃうくらい会ってないとか?」
「そんなこともないんですが、ついにこの日がきたかって思ったら、気分が盛り上がってしまって。本当、長かったので」
ルードが照れたように笑いながら頭を掻く。
その笑い声で悪ガキ二人が目を覚ましたが、すぐに【過冷却水球】で口を塞いだ。あんまり五月蝿いとルードが怒って食べてしまうかもしれないからね。
「手早いですね。脅かす手間が省けて助かります。さて、ではそろそろ……」
ルードが「ん?」と首を捻る。そして手の平を、拳の腹でぽんと打つ。
「ああ、そうそう、肝心なことを伝え忘れてました。なるほど、そういうことでしたか。だからユーゴは一日早く来たんですね」
「なんのこと?」
「僕の伝え忘れを、伝える流れに運命の奔流が戻してくれたということです。少しのズレであれば修整されるのでしょうね。これは興味深い。実感したのは初めてです。さて、明日は、皆で来てください。それでは」
俺の返事を聞く前に、ルードは大きく羽ばたいて飛び立つ。そして俺と悪ガキを強風で煽りつつ、天井の穴から出ていった。
明日の午後、か。
少し呆然としたが、段々と胸が高鳴りだす。明日、イノリノミヤと会える。となれば、こうしてはいられない。雑事を済ませてしまおう。
よし、と気合を入れた後で、悪ガキ共の下半身を氷結解除し体育座りさせる。それを一列に並べて【過冷却水球】で氷結連結。後ろから押してみる。
「むぅ、滑らんなぁ」
動くには動くが、望んだものではない。一旦横倒しにして【過冷却水球】で接地面もしっかりと氷結させる。両サイドがブレード状になるように氷結を解除。起き上がらせて押してみる。
「お、いけるね。ムームー列車完成だ」
悪ガキ共はずっとムームー言っている。俺は【浮遊】を発動し、ムームー列車の先頭に移動。自分の背後に【吸引】を掛け、対象をムームー列車にする。
「出発進行!」
背中にピッタリ引っ付いているムームー列車から風術推進の加速で離れる。振り返ると乗車中の客が三人ムームー言いながらかなりの速度でついてきていた。
うんうん、しっかりと反省したまえよ。
俺は背後で事故が起きないように細心の注意を払いながらも、悪ガキ共が泣き叫ぶには十分な速度を維持して坑道の出入口を目指した。
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