上 下
347 / 409
それぞれの成長 元戦乙女隊編

11.坑道の奥にいたのは(4)

しおりを挟む
 
 
「むぅ、難しい話だね。たらればだから考えても無意味なんだけどさ」

「聞いていた通りに進んでいますから、最善に近い未来が選べたはずです。今以上を望む姿勢は立派ですが、それを想像するのは酷だと思いますよ」

「まぁ、ルードが言うのなら間違いなくそうなんだろうけれども、それはそうとして分からないことがあってね。それを訊いても良いかな?」

「勿論。僕が答えられることなら何でも」

「じゃあ、遠慮なく。本当に素朴そぼくな疑問なんだけども、冒険者ギルドカードってどうなってる訳? 名前はルードで年齢は二十歳って聞いてるけども」

 ルードは「ああー。なんだ、そんなことですか」と頷いて話した。

 聞くところによれば、ギルドカードの情報はあの青年のものらしい。本名はスヴェル。道理で記録魔道具の検索に引っ掛からない訳だ。

「中身は僕ですし、能力値も僕のものですが、表示されるステボはスヴェルのものになります。僕が取り憑いているとはいえ、魔力を溜めるのは彼の魔器ですから、作られるギルドカードも彼の能力が表示されたということでしょうね」

「興味深いね。てことは、属性も変化するの?」

 そうです。とルードは首肯した。

「僕は闇属性なんですが、転落死した際の大怪我はスヴェルの持っていた光属性の回復術で修復しました。本来、死体には逆効果になる回復術も、僕が【ポゼッション】で取り憑いた状態だと生存判定になるようで、しっかり治りましたよ」

「それって、とんでもないことやってるんじゃない? 光術と闇スキルの同時使用ができてるってことでしょ? 強制的に従魔になってるみたいだよ」

「その表現は間違いですよ。どちらかといえば従魔を持つ側になる感じです。従魔は主人の術を借りて使うことはできませんから」

 あ、確かに。

 こんな感じで質疑応答していくうちに、段々と死体の詳細が分かってきた。

 スヴェルは地元で登山ガイドのような仕事をしていたらしい。属性はウェズリーで取れる土と火に加え、光まで所持。

 客が怪我をしたときの為に回復術が必要だからと、わざわざアルネスの街まで行って取得していたのだとか。

「真面目だねー。好青年だ」

「そうなんですよ。チエに爪の垢をせんじて飲ませてやりたかったです」

 両親は既に他界しており、身寄りは三つ下の妹だけ。その妹も既に嫁いでいるとのこと。これらの情報はすべてスヴェルの妹から得たものらしい。

「その妹さんって、今はどうしてるの?」

「亭主と幸せに暮らしていましたよ。スヴェルともそれなりに仲が良かったようでしたから、一応、冒険者として旅に出るとは伝えておきました」

「そうか。それは良いことをしたね」

 俺は少し寂しい気持ちでスヴェルの遺体を見つめた。アフターケアがあったとはいえ、気の良い真面目な好青年が命を落としたことには変わりない。

 まだ若いのに……。なんで登山ガイドなんてやったんだ……。

 俺ならスヴェルなんて名前で登山ガイドをやろうとは絶対に思わない。

 滑落する確率百パーセントな名前だと思うから。

 しんみりとそんなことを考えている俺を、ルードはじっと待ってくれていた。

 おそらく感傷に浸っているように見えたのだと思う。もし心を覗くスキルがあったら叱られていただろう。自覚するくらいには不謹慎な内容だ。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...