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それぞれの成長 元戦乙女隊編
11.坑道の奥にいたのは(4)
しおりを挟む「むぅ、難しい話だね。たらればだから考えても無意味なんだけどさ」
「聞いていた通りに進んでいますから、最善に近い未来が選べたはずです。今以上を望む姿勢は立派ですが、それを想像するのは酷だと思いますよ」
「まぁ、ルードが言うのなら間違いなくそうなんだろうけれども、それはそうとして分からないことがあってね。それを訊いても良いかな?」
「勿論。僕が答えられることなら何でも」
「じゃあ、遠慮なく。本当に素朴な疑問なんだけども、冒険者ギルドカードってどうなってる訳? 名前はルードで年齢は二十歳って聞いてるけども」
ルードは「ああー。なんだ、そんなことですか」と頷いて話した。
聞くところによれば、ギルドカードの情報はあの青年のものらしい。本名はスヴェル。道理で記録魔道具の検索に引っ掛からない訳だ。
「中身は僕ですし、能力値も僕のものですが、表示されるステボはスヴェルのものになります。僕が取り憑いているとはいえ、魔力を溜めるのは彼の魔器ですから、作られるギルドカードも彼の能力が表示されたということでしょうね」
「興味深いね。てことは、属性も変化するの?」
そうです。とルードは首肯した。
「僕は闇属性なんですが、転落死した際の大怪我はスヴェルの持っていた光属性の回復術で修復しました。本来、死体には逆効果になる回復術も、僕が【ポゼッション】で取り憑いた状態だと生存判定になるようで、しっかり治りましたよ」
「それって、とんでもないことやってるんじゃない? 光術と闇スキルの同時使用ができてるってことでしょ? 強制的に従魔になってるみたいだよ」
「その表現は間違いですよ。どちらかといえば従魔を持つ側になる感じです。従魔は主人の術を借りて使うことはできませんから」
あ、確かに。
こんな感じで質疑応答していくうちに、段々と死体の詳細が分かってきた。
スヴェルは地元で登山ガイドのような仕事をしていたらしい。属性はウェズリーで取れる土と火に加え、光まで所持。
客が怪我をしたときの為に回復術が必要だからと、わざわざアルネスの街まで行って取得していたのだとか。
「真面目だねー。好青年だ」
「そうなんですよ。チエに爪の垢を煎じて飲ませてやりたかったです」
両親は既に他界しており、身寄りは三つ下の妹だけ。その妹も既に嫁いでいるとのこと。これらの情報はすべてスヴェルの妹から得たものらしい。
「その妹さんって、今はどうしてるの?」
「亭主と幸せに暮らしていましたよ。スヴェルともそれなりに仲が良かったようでしたから、一応、冒険者として旅に出るとは伝えておきました」
「そうか。それは良いことをしたね」
俺は少し寂しい気持ちでスヴェルの遺体を見つめた。アフターケアがあったとはいえ、気の良い真面目な好青年が命を落としたことには変わりない。
まだ若いのに……。なんで登山ガイドなんてやったんだ……。
俺ならスヴェルなんて名前で登山ガイドをやろうとは絶対に思わない。
滑落する確率百パーセントな名前だと思うから。
しんみりとそんなことを考えている俺を、ルードはじっと待ってくれていた。
おそらく感傷に浸っているように見えたのだと思う。もし心を覗くスキルがあったら叱られていただろう。自覚するくらいには不謹慎な内容だ。
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