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それぞれの成長 元戦乙女隊編
8.坑道の奥にいたのは(1)
しおりを挟むそんな馬鹿をやっている間に片側の壁がまばらに途切れ、辺りが赤々と照らされ始めた。崖下では溶岩の煮えたぎる川が流れ、粘性のある飛沫を上げている。
まだ先か? と心で呟いたとき、探知に大きな反応があった。感じただけで項の毛が逆立ち、冷や汗が噴き出す。思わず飛ぶのを止めて、その場に留まる。
これ、遭遇して大丈夫なやつか……?
頭に竜神という言葉が浮かぶ。悪ガキ共を探しに入ったつもりだったが、道中見当たらなかったことと、この圧倒的な気配があることを考えれば、おそらくもう生きてはいないのだろうと感覚が教えてくれた。
ん? あれ?
え、まさか、そういうこと⁉
俺はここに来てようやく気づいた。要するに、俺がこの得体の知れない怖ろしい気配の持ち主に謝罪に行かされてるんじゃねーか馬鹿野郎。
休み明けの会社よりも行きたくない気分に襲われるが仕方ない。
ここまで来たんだ。行ってやろうじゃないの。
キリキリと痛む胃を抱えて、気配に向かって進む。大きく曲がった道の先で、十メートル以上はあろうかという漆黒の竜が身を丸めていた。
でっか! 迫力すごっ!
すぐに【浮遊】を解除して立ち止まり、壁のような出っ張りに身を隠す。黒竜は眠っているように見えたが、俺が覗いている間に瞼が持ち上がった。
黄色い眼球の中にある菱形の虹彩が俺を捉える。
ヤバい! と思って慌てて頭を引っ込めたが、その行為には何の意味もなかったようで、間もなく鼻で笑うような音がした。
明らかに気づかれている。これはどうしたものか。
行くべきか行かざるべきか。いや行くしかないんだけれども。
「ユーゴ、約束は明日の午後ですよ? 早く来すぎです」
滝のような汗を流して逡巡している間に、そんな言葉が耳に届けられた。俺はその声に聞き覚えがあった。気づくと同時にハッとした。体が驚きで震える。
「まさか、ルード⁉」
「ふぁああ、そうです。まぁ、どうぞこちらへ」
大欠伸をして眠たげに歓迎の言葉を掛ける黒竜。俺はその眼前へと恐る恐る歩み寄った。
まばらに穴の空いた天井から、幾筋もの陽光が差し込む、歪で巨大な岩の檻のような部屋の中央。そこにある石造りの高台の上で、ルードだと肯定した黒竜が軽く身を起こす。
「お前、竜だったのか⁉」
「見ての通りですよ。ユーゴが来るまでの一年、本当に大変でしたよ。こんなに大変だったのは五百年振りくらいです」
「五百年⁉」
「ええ。ですがそれは後にして、まずはこちらを見てください」
ルードがそう言って、顎を横に向ける。示された方には、所々が途切れて曇り空の見える格子状の岩壁があるだけ。視界を動かしたが、他には何も見当たらない。
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