上 下
344 / 409
それぞれの成長 元戦乙女隊編

8.坑道の奥にいたのは(1)

しおりを挟む
 
 
 そんな馬鹿をやっている間に片側の壁がまばらに途切れ、辺りが赤々と照らされ始めた。崖下では溶岩の煮えたぎる川が流れ、粘性のある飛沫しぶきを上げている。

 まだ先か? と心で呟いたとき、探知に大きな反応があった。感じただけでうなじの毛が逆立ち、冷や汗が噴き出す。思わず飛ぶのを止めて、その場に留まる。

 これ、遭遇して大丈夫なやつか……?

 頭に竜神という言葉が浮かぶ。悪ガキ共を探しに入ったつもりだったが、道中見当たらなかったことと、この圧倒的な気配があることを考えれば、おそらくもう生きてはいないのだろうと感覚が教えてくれた。

 ん? あれ?

 え、まさか、そういうこと⁉

 俺はここに来てようやく気づいた。要するに、俺がこの得体の知れない怖ろしい気配の持ち主に謝罪に行かされてるんじゃねーか馬鹿野郎。

 休み明けの会社よりも行きたくない気分に襲われるが仕方ない。

 ここまで来たんだ。行ってやろうじゃないの。

 キリキリと痛む胃を抱えて、気配に向かって進む。大きく曲がった道の先で、十メートル以上はあろうかという漆黒の竜が身を丸めていた。

 でっか! 迫力すごっ!

 すぐに【浮遊】を解除して立ち止まり、壁のような出っ張りに身を隠す。黒竜は眠っているように見えたが、俺が覗いている間にまぶたが持ち上がった。

 黄色い眼球の中にある菱形の虹彩こうさいが俺を捉える。

 ヤバい! と思って慌てて頭を引っ込めたが、その行為には何の意味もなかったようで、間もなく鼻で笑うような音がした。

 明らかに気づかれている。これはどうしたものか。

 行くべきか行かざるべきか。いや行くしかないんだけれども。

「ユーゴ、約束は明日の午後ですよ? 早く来すぎです」

 滝のような汗を流して逡巡しゅんじゅんしている間に、そんな言葉が耳に届けられた。俺はその声に聞き覚えがあった。気づくと同時にハッとした。体が驚きで震える。

「まさか、ルード⁉」

「ふぁああ、そうです。まぁ、どうぞこちらへ」

 大欠伸をして眠たげに歓迎の言葉を掛ける黒竜。俺はその眼前へと恐る恐る歩み寄った。

 まばらに穴の空いた天井から、幾筋いくすじもの陽光が差し込む、いびつで巨大な岩のおりのような部屋の中央。そこにある石造りの高台の上で、ルードだと肯定した黒竜が軽く身を起こす。

「お前、竜だったのか⁉」

「見ての通りですよ。ユーゴが来るまでの一年、本当に大変でしたよ。こんなに大変だったのは五百年振りくらいです」

「五百年⁉」

「ええ。ですがそれは後にして、まずはこちらを見てください」

 ルードがそう言って、顎を横に向ける。示された方には、所々が途切れて曇り空の見える格子こうしじょうの岩壁があるだけ。視界を動かしたが、他には何も見当たらない。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界ツアーしませんか?

ゑゐる
ファンタジー
これは2020年、ウイルス疾患が流行していた時期のお話です。 旅行ができない日本人を異世界に召喚して、ツアーのガイドをする女子高生アンナの物語です。 * 日本の女子高生アンナは、召喚されて異世界で暮らしていました。 女神から授かった能力を使う、気楽な冒険者生活です。 しかし異世界に不満がありました。食事、娯楽、情報、買い物など。 日本のものが欲しい。魔法でどうにか出来ないか。 アンナは召喚魔法で、お取り寄せが出来ることを知りました。 しかし対価がなければ窃盗になってしまいます。 お取り寄せするには日本円を稼ぐ必要があります。 * アンナは、日本人を召喚し、異世界ツアーガイドの代金で日本円を稼ぐことを思いつきます。 そして事前調査やツアー中、異世界の魅力に気付きます。 アンナはツアー客と共に、異世界の旅を楽しむようになります。 * その一方で、 元々アンナは異世界の街を発展させるつもりはありませんでした。 ですが、ツアー客が快適に過ごすために様々なものを考案します。 その結果、街が少しずつ発展していきます。 やがて商業ギルドや貴族が、アンナに注目するようになります。

処理中です...