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それぞれの成長 パーティー編
30.確認したいこと試してみたいこと(3)
しおりを挟む「エリーゼじゃない。何してんの?」
「何って、見ての通り門兵だ」
「隊長なのに?」
「それは戦乙女隊のときの話。今の私はウェズリーの正規兵見習いだからな」
そう言って衛兵の板金鎧を軽く叩く。鈍い金属音が鳴る。戦乙女隊のときとは違い、無骨で優美さの欠片もない。もう少し何とかならないかな、と思う。
「そういや、おはようって言ってなかった」
「ああ、そうだな。おはようユーゴ」
「おはよう、エリーゼ」
照れたように笑うエリーゼを見て、俺はふと思いつく。
「あのさ、抜けることってできる?」
「抜けるって、仕事をか?」
「うん、無理なら良いんだけど、良かったら出掛けないかと思って」
「で、出掛ける⁉ ちょ、ちょっと待ってくれ!」
エリーゼが門の側にある詰め所に駆け込んでいく。門兵はもう三人いるので、見習い一人抜けたところで支障はないと思うが。駄目だったらちょっと寂しい。
少しして、鎧を脱いだエリーゼが詰め所から出てきた。チュニックとベルトとズボン。街でよく見掛ける西洋風の出で立ちだが、質の良さが見て取れた。
「大丈夫だった?」
「ああ、問題ない」
そう言いながら、他の門兵にも頭を下げに行く。門兵たちも恐縮した様子で対応している。立場的に難しい位置にいるよな、と見ていて思う。
挨拶が済んだのかエリーゼが手招きしたので、小走りで側に行く。
「入出記録は済ませておいたから、行こう」
「あれ? そんなことまでしてくれてたの? 身分証明とかいらないの?」
「見ていて気づかなかったか? 門兵は皆ユーゴを知っている者たちなんだ。冒険者ギルドの立てこもり事件を解決した冒険者だと興奮していたよ」
エリーゼがクスクス笑いながら門を通り抜ける。俺は隣に並んで歩く。
「あれってそういうことだったんだ。俺はまたエリーゼが元戦乙女隊の隊長で貴族の娘だから縮こまってるのかと思ってたよ」
「そういう部分もなくはないと思うけど、ユーゴには敵わないな。それで、どこに出掛けるんだ」
「取り敢えず、カナン大平原かな」
エリーゼが「え⁉」と短い驚きの声を上げる。
「そんな遠出は無理だ! どんなに急いでも丸一日は掛かる! 今日中に帰れる場所じゃないと、ニーナたちが心配する!」
「今日中に帰れるから言ってるんだよ。人目が少ない場所じゃないとできないことがあってね。エリーゼにも知っておいて欲しいから」
俺は【浮遊】を掛ける。自分にしか掛けれないので、発動すると表現した方が良いかもしれない。エリーゼを抱き寄せ、膝裏に手を滑り込ませて抱え上げる。
エリーゼは「きゃっ」と女子らしい悲鳴を上げて、すぐに俺の首に手を回した。
「きゅ、急に何を」
「ちょっと口を閉じてた方がいいよ」
俺はゆっくりと上昇する。エリーゼは周囲の風景が変わっていくことに驚いた様子を見せる。そして飛んでいることに気づくと、俺にしがみついた。
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