【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

それぞれの成長 パーティー編

２７．精神感応はヤス君の旅を見せる（４）

　
　
　シンドゥー王国は初代が女王である為、基本的には女王が治めることになっているらしい。

　世継ぎに女児がいない場合は男が王位に就くが『仕方なく選ばれた人』という扱いで、子に女児ができるとより肩身の狭い思いをするのだとか。

「ははぁ、とっとと退位して娘に王位を譲れって空気になる訳ね」

「そうなの。だけど父様は譲らなかった。能力的には娘の私から見ても凡庸な人ではあったけれど、人を見る目はあったし、何より心根の良い人だったから」

「王位を譲ることに何らかの危惧があったってことか」

　サーナが「ええ」と苦々しい顔で首肯する。

「マリーダは生まれつき体格に恵まれていて、もう外見も内面もほとんど男と変わらないの。気性も荒いし、別邸に何人も男を囲ってたのよ！　考えられる⁉　王女が男を取っ替え引っ替えして股を開いてんのよ⁉　気に入らないといたぶって殺してしまうし！　やってることが動物や魔物と変わらないわ！」

「いや、腹立つのは分かるけどそういう話はいいわ。下品なのはあんまり好きじゃない。要は世継ぎにするには素行に問題がアリアリだった訳だな」

「そうなの。今話した通りだけど、それができたのは、そういう豪快な振る舞いを周囲が歓迎してたからなのよ。初代様は勇猛果敢な女傑だったから、マリーダは間違いなくその生まれ変わりだろうって」

「サーヤと似てるって……マリーダはサーナと似てるのか？」

　サーナは「まさか」と心外そうに言う。

「マリーダが似てるのはコングゴーレムよ」

「魔物じゃねぇか。比較対象がおかしいだろ。どんなんか知らんけど」

「ゴツゴツした岩の大猿よ」

　ヤス君が目頭を摘つまんでかぶりを振る。想像して目眩がしたのかもしれない。

「分かった。もういい。それで、マリーダが増長して王を弑逆、王位を簒奪、付き従う連中と一緒に王城を制圧したって感じか」

「多分、そうだと思う。私は宴の途中で席を立っていたから分からないのよ。もっとも、そのお陰でどうにか逃げ出すことができたんだけれど」

「王妃とか兄弟が戦ったんじゃないのか？」

「だとしても太刀打ちできないわ。マリーダの相手になるのはそれこそコングゴーレムくらいなものよ。宴の場にいた王族は皆殺しでしょうね」

　ヤス君は「ふーん」と言いながら顎に手を遣る。

「身内が皆殺しにされたって割に、あんまり悲しんでなさそうに見えるけど？」

「実際に見た訳じゃないから、実感がないのよ。父様の首が撥はねられるところは遠目に見たけど、悲しいというより、怖ろしいという気持ちの方が大きかったわ。この一週間、ずっと生きた心地がしなかった」

「ああ、それそれ、サーナは何でこんなところに？　しかも輿ってのが意味分かんねーんだけど。狙われてんのにあんなもんに乗って移動とかおかしいだろ」

「輿は運んでただけよ。私はラクダに乗ってたの。王城から脱出した後で、ローライズ卿、いえ、ラグナス帝国の貴族に助けを求める手紙を出してあったから、失礼がないようにって、私の侍女がね。必要ないって言ったんだけど……」

　サーナが表情を暗くする。

「輿なんて用意しなかったら、死ななくて済んだかもしれないのに。私のことばっかり考えて。本当、どうしてもっと強く止めなかったのかしら、私……」

　サーナの声が震え出す。ヤス君はそっぽを向いて手拭いを差し出した。