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それぞれの成長 パーティー編

25.精神感応はヤス君の旅を見せる(2)

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「な、何をするのですか?」

 慌ててついてくるサーナの質問に、ヤス君は「そりゃあ、使える物を回収するんですよ」と答え、サーナにも手伝うように言った。

 サーナは自分の【異空収納】では入り切らないし、大量の荷物を抱えての旅は難しいと訴えたが、ヤス君は【箱庭】があるから大丈夫だと答えた。

「王女様なんだから、寝床がないと困るでしょ?」

 ヤス君は輿の中にある荷物の大半を【異空収納】に仕舞うと、呆気にとられた様子のサーナの手を引いて【箱庭】の中に入った。

「あ、あの、申し訳ないのですが、ちょっと、よく分からないことが、こう、立て続けに起こると、何がどうなっているのかが……」

 サーナは混乱しているようだった。ヤス君は「俺の術っすよ」と笑って答え【異空収納】に収めていたペルシャ風の絨毯や金刺繍の施されたクッションなどの見るからに豪華な荷物を【箱庭】の中に置いていった。

「自由に使ってくれていいっすよ。この中はどこより安全っすから」

 ヤス君の言葉を聞いたサーナは我に返った素振りを見せてまた跪いた。

「ヤスヒト様は高名な術師であるとお見受け致します。助けていただいた上に、このようなことを申しますのは大変しつけだとは思うのですが、どうか私のお力になってはいただけませんでしょうか?」

 ヤス君は困ったように頭を掻きながら、サーナに座るように言った。それに従うサーナを確認すると、ヤス君も床で胡座を掻いた。

「まず、さっきも言いましたけど、俺は単なる流れ者の冒険者っす。だから力になれと言われても大したことはできません。それと、俺の目的は正直半分以上は遂げられたっていうか、もう帰らないといけないので」

「そこをどうにか」

 サーナが頭を下げる。ヤス君は溜め息を吐いて口を開いた。

「まぁ、話を聞くだけなら」

「ありがとうございます!」

 救われたような表情を向けるサーナから、ヤス君はばつが悪そうに目を逸らした。どうやら本当に話を聞くだけのつもりだったようだと覚る。そんなヤス君の気を知ってか知らずかサーナは話し始めた。

「一週間前のことです。シンドゥー王国第一王女マリーダ・シンドゥーが、宴の席で披露した剣舞のさなか父王を殺したのです。自分こそ王に相応しいと」

「あらら、弑逆しいぎゃくの上に王位簒奪さんだつっすか」

「はい。マリーダ姉様、いえ、逆賊マリーダは常々『シンドゥー王国は女王が統べるべきだ』と言っておりました。それで」

 ヤス君が「ちょっと待った」と言って両手の平をサーナに向ける。

「敬語も敬称もなしにしない? なんつーか、こそばゆいんだわ」

 首を捻るサーナに、ヤス君は自分の事情を話した。サーヤと友人だったことまですべて。勝手に渡り人であることを明かすのは問題だが、多分、俺でもそうしたと思う。時間がないときは特にそう。だってその方が話が早いもの。

 ヤス君が話し終えると、サーナは視線を落として思案めいた表情を浮かべた。何か思い当たる節があったのかもしれない。
 
 
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