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それぞれの成長 パーティー編

24.精神感応はヤス君の旅を見せる(1)

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 西に傾いた太陽が、赤く砂丘を照らす。アラビア風の民族衣装を着た長身の美女が砂漠を駆けている。ヴェールに覆われた長い黒髪をなびかせ、褐色の肌には汗が光る。どうやら追手がかかっているようで、しきりに背後を気にしている。

 サーヤ? とヤス君の呟く声が聞こえた。それで気づいた。どうやら俺はまた性懲しょうこりもなく精神感応を発動させてしまったのだと。

 だが、普段とは明らかに違った。俺の精神はヤス君と一体化しているはずなのに、自由が利いた。記憶の中を、第三者視点で覗き見ることができているようだ。

 或いは、夢だからなのかもしれない。それとも精神感応が成長したのか。すこぶる自由の利く体を動かし、砂漠をバイクで走るヤス君のかたわらに浮いて移動する。

 ヤス君はまるで俺に気づいた様子は見せない。それはこれが既に起きたことだからなのだろうが、正直あまり気分の良いものじゃない。幽霊になった気分で見守ることになるとは夢にも思わなかった。

 ヤス君は逃げている女性の側にバイクを止めると「掴まって!」と手を差し出した。女性は背後を気にしつつ逡巡した様子を見せたが、意を決したようにヤス君の手を取った。

 ヤス君が女性を後ろに乗せる。と、砂丘を越えてラクダに騎乗した十数名の男が現れた。こちらもアラビア風の出で立ち。頭にターバンを巻き、手には曲刀。下卑げびた笑いを浮かべている。

「行ってください!」

 女性が叫んだ。ヤス君はそれに従いバイクを走らせる。だが、砂埃をき散らしながら突如反転し、ラクダに騎乗した男たちに向かって直進した。

「何を⁉」

「大丈夫、任せて!」

 ヤス君が答えると同時に、バイクの周囲に、幾つもの氷柱が現れて追手と思しき男たちに向かい発射された。

 まさか攻撃されると思っていなかったのだろう。男たちは何の対処も取れずにあっさりと【氷柱舞】を受けてラクダから落下。その隙にヤス君はバイクを走らせて難を切り抜けた。

 バイクは砂塵を巻き上げて砂漠を走り続けた。しばらく進むと十数名の遺体と破壊された装飾きらびやかな輿こしのある場所を見かけた。

 女性が「止めてください」と声を掛けたので、ヤス君はその場所に近づきバイクを止めた。

 女性は無惨に斬り殺されているすべての遺体の元でひざまずいて瞑目し手を合わせた。その後、ヤス君の元に歩み寄ると、また跪いてこうべを垂れた。

「危ないところを助けていただきありがとうございました。私はサーナと申します」

「あー、もしかして王女様とか?」

 ヤス君は苦笑してヘルメットを消し、目を覆っていたゴーグルを上げる。サーナは驚愕の表情を浮かべ、腰に携えた短刀の鞘に手を掛けて構えた。

「気づいてらしたのですか?」

「まぁ、そっすね。知り合いにそっくりだったもんで。その血筋にあるんだろうな、とは思ってましたからね」

「シンドゥーの王族に知り合いが?」

「え、いやあ、ハハハ、こっちの話っすよ。俺はヤスヒトって言います。クリス王国で冒険者やってる流れ者っす。すんません、ちょっと失礼」

 ヤス君はバイクを消し、驚くサーナから逃げるように破壊された輿に向かった。
 
 
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