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それぞれの成長 パーティー編
16.マーダードールベアーズアトラクション(1)
しおりを挟む階層主の部屋の前に到達した俺たちは、軽く打ち合わせてから扉を開けた。
広い部屋の中央に、つぎはぎと縫合痕のあるカラフルな巨大熊のぬいぐるみが立っている。前回ヤス君が一人で仕留めた四十階層の主だ。
「ようこそ。僕はこのフロアのボス。マーダードールベアだよ。よろしくね」
一度見たことのある、身振り手振りを加えての自己紹介が始まる。
「これからちょっとだけ、僕のお話を聞いてもらいたいんだ。どうしてかというとね、このフロアは他のフロアと違って、特殊なルールがあるんだよ」
「前回はここでサクちゃんがドメスティックにバイオレンスしたんだよね」
「いや家庭内暴力じゃないだろ。俺はあいつの旦那じゃないぞ」
シッ! と口の前に人差し指を立てたフィルに叱られ俺たちは黙る。マーダードールベアは戯けた素振りで説明を続ける。
「どんなルールかって? それはね、僕に攻撃をしないことなんだ。もしそれを破ると、気の毒な女性たちの鬱憤と怨念が僕に取り憑いて大変なことになっちゃうから、絶対に攻撃はしないようにしてね」
俺は隣りにいるサクちゃんをじっと見る。サクちゃんは静かに俺の視線から顔を背けた。
だが反対側にいるフィルからも俺と似た視線をぶつけられていることに気づき、ビクリと肩を跳ねさせた後で正面を向いた。
「そのルールさえ守ってくれれば、この階層は戦わなくてもクリアできるんだ。戦う代わりに、アトラクションはクリアしてもらわないといけないんだけどね」
マーダードールベアが何もない壁に手を向ける。すると両開きの大きな赤い扉が出現した。地鳴りのような音をたてながら、扉がゆっくりと開いていく。
「あの扉の向こうがアトラクションルームになってるよ。チャレンジは一人ずつにしてね。もし破った場合は僕が君たちを死ぬまで引きずり回しちゃうよ。楽しいね。扉は開けっ放しにしておくから、無理だと思ったら戻っておいで。そのときも僕が殺してあげるから。それはそれで楽しいと思うんだ。それじゃあ頑張ってねー」
マーダードールベアが手を振る。物騒な物言いとは裏腹に愛嬌たっぷりに。
やっと説明が終わったか。とアトラクションルームに足を運ぼうとしたとき、サクちゃんが腕組みし、首を傾げて口を開いた。
「なぁ、アトラクションクリアでドロップアイテムって取れるのか?」
思いもよらぬ発言に、体が硬直する。フィルも気づいていなかったようで踏み出した足を一歩で止めた。
「た、確かに、言われてみればそうだね。でも、ここまで話を聞いちゃったし、一回だけでもチャレンジしてみない?」
「ぼ、僕も賛成。どっちが楽かを比べられるし、ドロップアイテムも取れるかもしれないからね。検証は必要だと思うよ」
サクちゃんは「それもそうだな」と言ってアトラクションルームに向かった。俺とフィルは顔を見合わせて苦笑しつつその後を追った。
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