【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

文字の大きさ
上 下
295 / 409
それぞれの成長 パーティー編

1.鍛練する理由となんとなく出来た新術(1)

しおりを挟む
「捜査の為に全生徒の身上書を確認させていただきます」

 野々村が1人で壁新聞を貼り替えていた頃、武藤とまどかは朝礼前の校長室へ訪れていた。

 本来は職員室で作業を行いたかったのだが、武藤ら警察の潜入捜査は一般の教師には知らされていない。下手な騒ぎを誘発するくらいなら、と校長が校長室の使用を許可したのだ。

 今日の2人の服装は昨日までの学校指定の制服ではなく、動きやすさを重視した黒のスーツだった。

 武藤は小脇にノートパソコンを抱え、少しでも動きやすくする為か長い髪をひっつめていた。
 まどかの方はあまり変化は無いが、改造制服を着ていた時よりは若干だが大人っぽく見えるかも知れない。

 やがて学校側から渡された分厚い紙のデータ。500人以上の写真の中から武藤は正確にマジボラの面々の写真だけをり抜いていく。

『名前』『学年』『学級』『住所』を慣れた手付きでノートPCに入力していくまどか。
 その先の行程は警察のデータに紐付けて本人達の補導歴はもちろん、彼女らの家族構成、そして家族の職業等を精査していく。

 武藤が一番懸念としていたのは、魔法少女とヤクザやテロリストといった「反社会的勢力」との結び付きであった。
 武藤自身、普段から暴力団相手の商売をしている為に、彼らの真っ当とは言えないやり口はある程度理解している。

 もし魔法少女らの活動が反社会的思想の元に行われているのであれば、たとえ人助け等の行動にも必ず裏があるはずだ。

 それらを突き止めずに無批判に魔法少女に飛び付く訳にもいかなかったのである。

「ふーん、今ん所ヤバい繋がりは無さそうですねぇ。どの家庭も円満そうな… あ、増田って子は事故で両親を亡くしてるんスねぇ、可愛そう…」

蘭の身上に同情し、悲しそうな顔をするまどか。そしてしんみりムードを堪能する間もなく、

「ガーン!! あの御影イケメンって女の子なのぉ?! ショックぅ~。あ、でもお兄さんがいるみたい! イケメン女子の兄貴ならイケメンですよねぇ、先輩?」

まどかの失望の嘆きと淡い希望が校長室に響き渡る。

「知らないわよ、真面目に仕事しなさいよ! …んで、あの殺人スケバンのデータは出たの?」

「えー? ちょっと待ってくださいよぉ… あれ? この『近藤睦美』って生徒と『土方久子』って生徒は… 変ですねぇ。16年前に地域に転入してきた形跡はありますが、その前の記録が転出元からも出ていません。これは不法入国の外国人の可能性がありますよ…」

『不法入国の外国人か… 最悪そっち方面で任意同行を求めて話を聞いても良い。拒否するようなら逮捕もむ無しだ…』

「そんな事よりこの2人、マジヤベーっすよ! 入学年が15年前と8年前ッス!」

 まどかの驚きに武藤も同調する。とても信じられないが、あのスケバンは15年も高校生をやっていると言うのだ。

「まさか?! どういう事…?」

「事情はわかんねーッスけど、普通に留年を繰り返しているみたいッス。後見人としてアンドレ・カンドレというここの教師の名前が出てます。そしてその教師は魔法奉仕同好会の顧問だそうです。『魔法少女』に『魔法奉仕同好会』… これあーしらかなーり真相に近付いてきたんじゃないスか?」

 捜査の着実な手応えにニヤリとするまどか。武藤もわずかに口元が緩んでいた。

「…しかもこのアンドレとかいう教師も出生国不明ですねぇ。もぉこれまとめて入管(入国管理局)に回した方が良い案件じゃないスか?」

「バカね。国外退去にしちゃったら私らの仕事が終わらないでしょ? まずはその確実に『何かを知っている』カンドレ教諭と話をしないとね… まどか、あんたは芹沢つばめをマークしなさい。昨日みたいな事件が起きると厄介だわ」

 武藤の命令だが、まどかは顔をしかめていた。

「えー? 今日学校の制服持ってきてないッスよぉ? 今から寮に行って服取って帰ってくるまで2時間かかるじゃないですかー」

「そんな事だろうと思って、乗ってきた車にあんたの部屋から持って来た制服積んでるから。さっさと行ってきな」

「ちょっ、あーしのクローゼット勝手に開けたんスか? ドロボーッスよドロボー!」

「うるっさい。マル暴のガサ入れ能力ナメんな。ほらほら行った行った。またつばめあのこに何かあったらお前の責任だよ?」

「ううっ、国家権力のオーボーっス…」

「いや、あんたもその権力側だからね?」

 漫才バトルに負けたまどかはトボトボと駐車場へと向かって行った。

 ☆

「イっケメン、イっケメ~ン♪」
 着替えたまどかが始めに行ったのは「御影詣で」であった。
 これは単に己の欲望を満たしているだけでは無い。御影とつばめは同じクラスであり、御影の近くにいればつばめの監視も困難では無い。
 更に御影の取り巻きの一人としてなら他学級の生徒でも1年C組にいて怪しまれない、という利点もあった。

 角倉まどか、バカっぽく見えても奸智の働く女である。

 やがて放課後になり、つばめが蘭や野々村と合流し、マジボラ部室に入って出てきて更にサッカー見物しながら女子3人でダベって、また揃ってどこかへ行こうとしている。

「会話が聞き取れる位置を取れれば最高だったんだけどねぇ、まぁ尾行ならお手の物だよ…」

 完全に気配を消す事に成功していたまどかは、ひとり密かにほくそ笑んでいた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

処理中です...