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もう一人の渡り人編
29.冒険者ギルド立てこもり事件(9)
しおりを挟む「ひゃー、ありがとう、助かったよ! マジで死ぬかと思った!」
「冗談抜きで冷や汗もんでしたよ。サブロがいなかったら間に合ってなかったっす。チエやばいっすわ。手数多すぎ。でもここから転移した先で射程圏内なんで、出てすぐ【箱庭】に落とします。至近距離であのデカい火球も撃てないでしょうから」
「小型の対処はいける? 戦車でやる感じ?」
「時間的に無理っす。【氷柱舞】と【氷壁】でなんとか」
「あ、じゃあ俺は残るよ。後で皆で入ってきて」
ヤス君が「了解っす」と首肯して出て行く。
あ、そうだ。
俺はふと思いつき【過冷却水球】を【箱庭】の中央に設置した後で魔力を注ぎ続けた。イメージ通り【過冷却水球】が徐々に肥大化していく。
二十秒ほどで天井に出入口が出現した。チエが悲鳴を上げながら降ってくる。
【過冷却水球】は直径一メートルほどに成長している。後はその中に体を収めてもらえれば氷結拘束できるのだが、気づいたチエが小型の火球を生成し連射した。
くっそ、やられた!
忌々しく思っているうちに大型【過冷却水球】に幾つもの小型火球が直撃。その衝撃により大型【過冷却水球】は飛散した。
かに見えたが、そうなったのは一部分だけ。残りは鋭く尖った氷柱のオブジェに変化しその場に留まった。
あっ――。
チエはその氷でできた剣山のようなオブジェの端に足から落下した。着地した瞬間、散った氷片を踏んで滑って前のめりになり、歪で鋭い氷塊に倒れ込む。
ゴッ――。
鈍い打撃音が鳴り鮮血が散る。
「いぎゃああああ⁉」
チエが悲鳴を上げた。俺が氷結解除する前に、手足をばたつかせながら、突き刺さっている氷柱をズルリと引き抜いてしまう。
夥しい量の血が噴き出し【箱庭】の中が赤く染まる。顔は打ちつけたことで潰れ、眼球も抜け落ち失っている。首は抜くときに無理に力を加えたことで抉れていた。
出血が酷すぎる……。回復術を使ったとしても、もう助からないな……。
叫び声が止み、チエが仰向けに倒れていく。
事切れたか……。
結局は極刑になるのだろうが、おとなしくしていれば、こんな酷い終わり方をしなくて済んだかもしれないのに。
そう思いつつ歩み寄る。と、チエが胸に手を当てて何かを呟いたのが聞こえた。聞き間違いじゃなければ「死ね」と。
まさか――!
壁に出入口が生じた。
「入るな!」
俺は叫んで出入口に向かって駆ける。ヤス君が入ってきたが、押し出すようにして【箱庭】から飛び出す。
「痛っ、なっ、なんす――」
冒険者ギルドの床に二人で倒れ込んだ刹那、背後で爆発音が鳴り響いた。
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