上 下
290 / 409
もう一人の渡り人編

27.冒険者ギルド立てこもり事件(7)

しおりを挟む
 
 
「ユーゴ、どうしたの? 大丈夫?」

 フィルが心配そうな顔で訊いてきた。どうやら、俺の具合の悪さは外見にも表れているようだ。サクちゃんもいぶかしんでいる。俺は手振りだけで二人に問題ないことを伝え、ヤス君に訊ねた。

「ヤス君、探知だとどんな状況?」

 訊かれたくなかったのだと思う。ヤス君は視線を逸らして表情を暗くした。

「二人、動かなくなりました。おそらくもう……」

 俺は「分かった」と頷いた。そして冒険者ギルドの出入口へ向かい歩く。

「ユーゴさん、どうするつもりっすか?」

「チエを討伐する。俺がやるよ」

 最も単純な解決策。それは殺すこと。そんなことはヤス君にだって分かっていたはずだ。だがそれをしなかったのは、殺人に抵抗があったから。

 俺を含め、うちのパーティーメンバーは皆そうだ。ドゴンたちの襲撃でも、即死させるような攻撃はしなかった。しようと思えばできるのに、それを避けていた。

 多分、そうするのが当然って思ってるんだよな、俺たち。

 魔物化した者を手に掛けたことはあったが、それは止むにやまれずだ。救えないから、そうせざるを得なかったというだけで、望んでやったことではない。

 チエに対してもそうだ。決して殺したい訳ではない。だがそうしなければ、被害は増える一方、というか、生かしておくと、ろくなことにならない気がする。

 絶対、逆恨みされてつきまとわれる……。

 さっきの映像を思い出して身震いする。あれが本物のサイコパスというやつだ。

 さて、どうするか。

 ここからだと遠すぎて【過冷却水球】の設置は位置が定まらない。

 いや、また捕縛しようとしちゃってるよ。駄目だって。あの火球の他にも攻撃手段はあるって絶対。全力で殺しにいかないと、こっちが殺される。

 まずは、距離を詰めないとだよな。【天眼芯】をカウンターの向こうまで投げ込んで、ヤス君に【犠芯転移】で送ってもらおうか。あとは出たとこ勝負。

 怖いな。死ぬかもしれないよな。あー、やりたくねー。

 そういった思いで足を進めたのだが、困ったことに俺の頼れる仲間たちが全員ついてきた。サブロまでが「ピギッ!」とやる気を見せる始末。

「人を殺すのは、最後の手段、だと思ってたんすけどね」

「皆そうだろ。今がその手段を使うときだ」

「ユーゴでもどうしようもないんだから、諦めもつくよね」

「え? 俺に期待してたの?」

 当然、という返答が揃う。俺は頭を掻いて苦笑する。

「そりゃ申し訳ない。ただ命を奪うことが最善だと思う。捕縛できるに越したことはないけど、その後のことを考えると難しい気がする」

「同感だ。おとなしく牢に入っているとは思えん。狡賢いしな。衛兵をやり込めて逃げられでもしたらまた被害者が出る。あとはルードが通してくれるかどうかだが」

 背に声を掛けようとしたところで、ルードに手で止められる。

「撃って、きます」

 ルードが呟いた直後、また火球が現れた。ルードはそれを手で払い消し去る。

「僕は、動け、ません。人が、大勢、いるので」

 あ、そういうことだったのか。

 ルードが出入口の前で仁王立ちしていたのは、逃さない為だけでなく、チエの視界を狭める目的もあったのだと気づく。というより、ルードは自分を囮にしているように感じた。野次馬を標的にされるとたまったもんじゃないもんな。

 チエの性格的に、許しておけない存在はルードだ。敢えて自分が目の敵にされるような振る舞いをしてきたと思えば、謎の行動も理解できる。

 だが、そんなことは結果が分かってないとできない。

 とすると、ルードは予知能力でもあるとか?

 疑いの目を向けていると、ルードが「予言」と言った。俺は耳を疑う。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

可愛いあの子は溺愛されるのがお約束

猫屋ネコ吉
ファンタジー
酷い虐待を受けてクリスマスの夜死んだ主人公が異世界の神様によって転生した。 転生した先は色々な種族と魔物がいる剣と魔法と呪いがある世界。 そこで転生チートとして大きな魔力と最強の治癒魔法と魔法道具を貰った主人公がいく先々で最強の魔物や勇者に各種王族、民達に美味しい料理や治癒しては溺愛されていくお話し。 主人公は男の子です!女子に間違えられるのがテンプレですけど結構男前な性格かな? 結構テンプレです。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

空間魔法って実は凄いんです

真理亜
ファンタジー
伯爵令嬢のカリナは10歳の誕生日に実の父親から勘当される。後継者には浮気相手の継母の娘ダリヤが指名された。そして家に置いて欲しければ使用人として働けと言われ、屋根裏部屋に押し込まれた。普通のご令嬢ならここで絶望に打ちひしがれるところだが、カリナは違った。「その言葉を待ってました!」実の母マリナから託された伯爵家の財産。その金庫の鍵はカリナの身に不幸が訪れた時。まさに今がその瞬間。虐待される前にスタコラサッサと逃げ出します。あとは野となれ山となれ。空間魔法を駆使して冒険者として生きていくので何も問題ありません。婚約者のイアンのことだけが気掛かりだけど、私の事は死んだ者と思って忘れて下さい。しばらくは恋愛してる暇なんかないと思ってたら、成り行きで隣国の王子様を助けちゃったら、なぜか懐かれました。しかも元婚約者のイアンがまだ私の事を探してるって? いやこれどーなっちゃうの!?

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

処理中です...