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もう一人の渡り人編
25.冒険者ギルド立てこもり事件(5)
しおりを挟む「それでルードが吹き飛ばされて、皆は巻き込まれるような形で、外に放り出されたってことか。なるほど、だから出入口が木っ端微塵になってたんだ」
「いや、あれは皆で壊した。そのままぶつかったら死ぬと思って」
「フィル君以外は装備なしっすからね。咄嗟の判断っす」
「僕だってぶつかりたくなかったからね。頑丈そうだし、絶対怪我するもん」
吹き飛ばされながらも総攻撃して扉を破壊した模様。弁償しろとかは、流石に言われないだろう。もし言ってきたら全力で反駁しよう。お宅の職員が原因ですって。
「ところでさ、人質は他の職員と中に残ってた冒険者なんだよね? ここからもチラホラ見えるけど、あれ、普通に逃げれるんじゃないの?」
無理っすね、とヤス君が肩を竦める。
「チエは既に三人殺してます。見せしめっすよ。標的にされたのは出入口近くにいた新米冒険者っす。逃げ出そうとして火球に飲まれたんす」
「それも、その時点では殺してない。大火傷をさせて死ぬまで放置だ。俺たちと同じで、発動領域を無視できるようだ。視界にいる者はすべて標的になってる」
「あ、そうだ。言い忘れてたけどモンテさんもいるよ。チエの手伝いをしてる」
中の様子を見るが、チエもモンテさんも見当たらない。ここから五十メートル以上は離れているカウンターの向こうに隠れているのだろう。
その状態で攻撃してこれるということは、ヤス君並の探知が使えるということか。敵対して初めて分かった。渡り人は本当に厄介な相手だ。
「モンテさんは、何か弱みを握られてるんだろうね」
「そうは言っても共犯だからな。罪は償ってもらわんと」
「それは後にしよう。話を戻して悪いけどさ、その火球にやられた新米冒険者って【箱庭】と回復術でどうにかできなかったの?」
「大火傷した人を四五メートル下に落下ってのは鬼畜の所業っすよ」
確かに。トドメだな。
「じゃあ、ヤス君が【箱庭】に入って近づいて、素早く中に引き込むとか」
「無理っすよ。半径三メートルっすし、一回使うと一分もクールタイム挟むんすよ?」
「さっきも言ったが、全員標的で下手に動けん。ヤスヒトも似たようなことを考えたが、そのときに三人は焼き尽くされたんだ。遺体が見当たらんだろ」
言われてみれば、どこにも遺体はない。影も形もないということは、相当な火力があるということだろう。その上で全員標的というのは反則ではなかろうか。
「八方塞がりって感じか。それで膠着状態になってる訳ね」
「転移が潰されたところで詰みなんすけどね。チエが無駄に粘ってるんすよ」
「何か狙いでもあるのかと思ったんだけど、そうでもないみたいなんだよね」
「どういうこと?」
「チエには不解爆呪がかけられてる。ユーゴが来る随分前に、いつでも自爆できるって騒いでたんだ。狙いも何も、ヤケクソになってるようにしか見えん」
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