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もう一人の渡り人編
21.冒険者ギルド立てこもり事件(1)
しおりを挟むずっと謎だと思っていたことがある。それは、闇術の【影転移】について。
俺の知る限り、使えるのはリンドウさん、サイガ組のレインさん、そしてラグナス帝国の工作員と思われる、ハンを名乗る黒いローブの男。この三人のみ。
ヤス君は使うことができなかったと言った。いや、俺たち渡り人組は術についての知識を得ることが遅れた為に、特殊な形で術を開発行使するので除外しよう。
閑話休題。
魔物化の呪いを完成させた工作員は十二年もアルネスの街に滞在していた。
呪いというからには、闇属性を得ていたはずだ。にも拘らず【影転移】を習得できていなかった。という訳で、闇術の【影転移】は習得難度が高いのだろうという結論に至った。の、だ、が、これもまた以前から頭の片隅にあったことなので置く。
本題はもう一つ思っていたことの方。それは【影転移】には使用時に条件があるのだろうな、ということ。それが今回の件ではっきりしたように思う。
人身売買。これが行われたことが鍵。
というのも【影転移】を無条件で行使できた場合、ラグナス帝国から他国に転移し、適当に国民の手を掴んでまたラグナス帝国に戻るという行為を繰り返すだけで、延々と人攫いを繰り返すことができてしまうからだ。
こんなことが可能なら、人身売買の必要などなくなる。なので、それを行っていない時点で、何らかの制限があると見て間違いないと思った次第。
これは重要なことだと思い、帰りに立ち寄る予定のリンドウ邸で、皆で楽しく食事でも食べながら、それとなくリンドウさんに訊いてみようと心に決めていたのだが、それを行う前に、図らずも【影転移】について知ることとなった。
時は少し遡る――。
衛兵詰所から解放された俺は、まずは宿に向かった。三人と別れたのは四時間前、流石にもう用事を済ませて帰っているだろうと思ったからだ。
だが、宿に着き受付で確認したところ誰一人として戻っていなかった。
これは何かあったに違いないと思い、大急ぎで冒険者ギルドに向かったのだが、付近に到着してみると人だかり。何やら騒然としていた。
なんだなんだ?
近づいて背伸びし、人だかりの向こうを確認して目を疑った。扉の破壊された出入口の前で、半月斧を手にしたルードが仁王立ちしていたのである。
後ろには、ルードを支援するように構える俺の仲間たちの姿。その様子からは、絶対に冒険者ギルドの中からは出さんぞ、という気概が感じられた。
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