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もう一人の渡り人編

10.自嘲の言葉を呟くと間髪入れずに首肯する友人(3)

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「あー、無視するのは別に構わないけども、俺たちはアルネスの街から来た、領主エドワード・マクレーンの客分だ。衛兵隊から礼を失した扱いを受けたと抗議することもできるということを理解しておくように」

 衛兵隊がざわつく。が、副長は動じた様子を見せず一歩前に出た。

「嘘を吐け!」

 うわちゃ、これは穏便にはいかないな。

「言うに事欠いて、領主の客分だと! 笑わせるな、この痴れ者が! 貴様のような平民風情が、アルネスの街の領主と懇意にできる訳がなかろうが!」

「あらら、極刑確定っすね。副長さんご愁傷様っす」

「んー、正当性の主張だけでとどめておくべきだったよね。目撃者がこんなに大勢いるのにさ。僕ならもっと言葉を慎重に選ぶけどな」

「は? な、何を?」

「俺たちは客分だと言っただろ。ユーゴ、証明する物はないが、どうする?」

「そうだね。取り敢えず拘束してもらおうかな。転移術で確認してもらえば、今日中には証が立てられるでしょ。領主の客分への無礼は極刑。今の発言は無礼千万だし、証が立った時点で、副長はおろか衛兵隊は全員極刑。家族にも累が及ぶ感じになるね」

 よく知らないが適当に言ってみた。

 衛兵隊のざわつきが大きくなる。困惑を超えて混乱や怯えが表れる。俺たちのあっけらかんとした様子に信憑性が感じられたのだろう。

 副長は引くに引けない様子で、周囲に「騙されるな、デタラメだ!」と必死になって声を荒げているが、残念なことに本当なんだよな。

「エリーゼ、話は訊いた?」

 振り返って訊くと、エリーゼが「はい」と答えて跪いた。

「知らなかったとはいえ、大変なご無礼を」

「ああ、そういうのはいいよ。敬語も敬称もいらない。それで、俺たちはどうなるのかな? 証がないから、やっぱり牢に入れられるのかね?」

「いえ、隊長権限で解放しま、いや、解放する」

「隊長! 騙されてはいけません! こいつらは悪党ですよ!」

「黙らっしゃい! 衛兵隊! 副長を捕縛しなさい!」

 衛兵隊の中から「はっ!」という少なくも力強い声が上がり、三人が機敏に動いて副長を取り押さえた。他はまごつくばかりで副長を助ける者は一人もいない。

「隊長⁉ 正気ですか⁉ 証のない者を捕らえても我々に咎はないんですよ⁉」

「え⁉ そうなの⁉」

 驚いて訊く俺に、エリーゼが「そうだ」と首肯する。

「証を持っていない場合は、その者に責任があることになっているから、衛兵としての責務を全うするのなら『領主の客分』という言葉を出された時点で虚偽を疑い捕縛するというのが正しい行動だ。捕縛して罪に問われることはない」
 
 
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