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もう一人の渡り人編
9.自嘲の言葉を呟くと間髪入れずに首肯する友人(2)
しおりを挟む「交換滞在先がウェズリーなのは、見聞を広めさせるとか箔がつくという建前はあるが、実際は訪れるまでの道中が長期旅行になるからなんだ。言ってしまえば、娘に息抜きさせる為だよ。長期滞在もドワーフ相手なら色恋沙汰にもならないだろうという親の謀略。戦乙女隊は皆それを理解している。お遊びなんだよ」
真面目に騎士を目指している者もいるのに、とエリーゼは肩を落とす。
馬鹿みたいな話だが、戦乙女隊の移動時には五十人からなる護衛騎士隊が迎えに来るらしい。ウェズリーでの任務も国境警備などの危険なものは与えられず、衛兵として治安の良い場所を巡回するのみなのだとか。
「それも六人一組で朝昼晩の三回を交代でやっているだけだ。一度の巡回は三十分もあれば済むし、何かあっても構えるだけで手を出さないよう命令を受けている。彼女たちが槍を構えたまま動かないのはそれが理由だよ」
え⁉ 嘘だろ⁉ 清廉潔白なエリーゼが煙たがられてるからじゃないの⁉
推測を誤った。少し嫌な汗が流れたが、チエと繋がっている以上、全員ではなくとも腐敗は確実にあるはずだ。むしろその命令を利用していると考えれば良い。
落ち着け、俺。今日は間違えてばかりだが、焦るな、俺。
「隊長さんドンマイっす。けど、事情が分かると納得できる部分が増えましたね。貴族の娘が根性悪に感化されて結託したってとこっすね」
「元々、腐敗貴族の娘で根性がねじ曲がっていたとも考えられるぞ」
「それを上手いこと利用しているとしたらチエは相当だよ? もはや悪女だよ」
エリーゼが要領を得ないようだったので、三人に説明を任せて、俺は衛兵隊に向かって声を掛けた。勿論、対象は副長。まずは名前から訊いてみた。
だが返ってきたのは沈黙。どうやら答える気はないらしい。証拠を消しに行った衛兵たちが戻るまで、余計なことを話さないつもりなのだろう。
チエの入れ知恵かな? いやらしいな。悪知恵が磨かれてる。
海辺の開拓村の腐敗貴族にできていなかったことが、この衛兵たちにはできている。無謀に権力を振りかざすことなく、じわじわとこちらの正当性を奪っていく。
そして自分たちが不利益を被る証拠を隠すことに全力を尽くしている。
そこに罪悪感があるかは分からない。だがはっきりと言えるのは、その悪事が招く身の破滅を理解しているということ。そうでなきゃ、こんなやり方はしない。
それだけに、引き際は弁えているよな、多分。長いものには巻かれろって感じがするし、こっちからドーンと権力をぶつけてみるか。
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