265 / 409
もう一人の渡り人編
2.スキンヘッドドゴンべチーン(2)
しおりを挟む「日が暮れる! なんで誕生秘話から入る! 早送りして!」
「ユーゴ、早送りじゃ分からんだろ。ドゴン、もう少し話を先に進めてくれ」
「先に、ですかい? それじゃあ半月後に寝返りを打ったんですけど」
「半月⁉ 半年じゃなくて⁉」
「ああ、すいやせん、半年でした。へへへ」
フィルがブフォッと噴き出して笑いだす。いや笑い事じゃないぞ本当に。
「なんか、時間稼ぎされてるような気がしてくるんすけど」
「いや、それは考えすぎでしょ。元の世界でもいたよ、こんな人」
何かを話すときに、前置きがやたらと長い人はいる。旅行に行ったときの話を訊いたのに、旅行に行くことになった経緯の方を念入りに話すような。
声を大にして言いたい。聞きたいのはそこじゃない!
面白ければ良いが、話が下手な奴ほどそういうことをする。なんで自分の話に酔っている奴に付き合ってやらねばならんのか。お前にそんなに興味はないぞ。
でもドゴンは、まぁ、いつかは聞いてもいいかな。
だが今は急いでいる。このままじゃ埒が明かないので、質疑応答に切り替えた。すると驚くほど円滑に情報を引き出せた。最初からこうしていれば良かった。
ドゴン一味は柄が悪いが賊ではなく傭兵稼業を行う流れ者の一団だった。ラグナス帝国東部では鉄槌のドゴンとして名が知られているとのこと。少し前まで帝国の東側でシンドゥー王国との小競り合いや賊の討伐に駆り出されていたのだとか。
「それがなんでウェズリーに?」
「ヘマやらかしちまったんでさぁ」
ドゴンは半狸人であることを意図せず隠していた。見た目は大柄な人でしかないので、普通に仕事ができていたのだが、雇い主から酒に誘われたときに何気なく素性を明かしたところ、酷い差別的な罵倒を受けたという。
「『騙していたのか⁉』なんてどやしつけられやしてね。俺らがいた東部の方じゃ、大した差別もなかったんで気にもしちゃいなかったんですけど、雇い主があんまりボロクソに言うもんで、頭にきてぶん殴っちまったんでさぁ」
「拳でだよね?」
「いや、こいつで」
ドゴンが脇に置いてある大金槌を手で叩く。ご愁傷様です。
「それで、お尋ね者にされちまったんで、こっちに来たって訳でさぁ」
「シンドゥー王国の方が近いんじゃないっすか?」
「あっちでも名前が知られるくらいにゃ暴れてやすからね。安心して暮らせやせんと思いやして。そいでクリス王国に入ったんですが、傭兵の仕事がなくて」
ラグナス帝国では冒険者というものが存在せず、傭兵ギルドが似たような役割を担っているらしい。ただ、雇い主との伝手ができた時点でお抱えになることが多く、傭兵ギルドで仕事を受けるのは数回程度なのだそうだ。
雇い主との関係ができてからは、指示された内容をこなすだけで特に何も考えずに生きてきた為、世の中のことをほとんど知らなかったとドゴンは言う。
「冒険者ギルドなんてもんがあるって知ってりゃあ、あちこち歩き回らなくて済んだんですがね。うちの連中が気づかなかったら、まだドサ回りしてやしたね」
「うんうん、冒険者ギルドに登録したんだね。じゃあ話を進めて」
ドゴンが「へい」と言って首肯する。
「チエって受付の嬢ちゃんが登録からやってくれたんですがね、こっちの話を親身になって聞いてくれて、専属担当ってのになってくれたんでさぁ。そりゃなんだって聞いたら、こっちで探さなくっても、仕事の依頼を用意してくれるってんで、こいつぁ楽だと思いやしてね。この半年ほど、ずっと世話になってるんでさぁ」
「ちょっと待った。半年? それで合ってる?」
「あ、いや半月でした。へへへ」
「どうでもいいよ!」
フィルが駆け寄ってきてドゴンの頭を平手で叩く。今度は軽めだったからか、ドゴンはツルツルの頭をニコニコしながら撫でている。
あれ? 今のは俺が悪くないか? なんでドゴンが叩かれるんだ?
0
お気に入りに追加
432
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!
yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。
しかしそれは神のミスによるものだった。
神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。
そして橘 涼太に提案をする。
『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。
橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。
しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。
さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。
これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。
スキル、訳あり品召喚でお店始めます!
猫 楊枝
ファンタジー
14歳の理子は母親から食事もロクに与えてもらえない過酷なネグレクトにあっている。
理子はそんな過酷な日常を少しでも充実させる為、母から与えられた僅かなお金を貯めてはスーパーで売られている『訳あり品』を購入しながら凌いでいる。
しかし、母親が恋人に会いに行って戻ってこない日が続いた事によって生死の境をさ迷ってしまう。
空腹で気を失った理子が目を覚ました先はゴツゴツとした岩壁に阻まれた土埃漂うダンジョンだった。
ダンジョンで出会った人間の言葉を話せる、モフモフのはぐれ魔獣『カルベロッサ・ケルベロシアン・リヴァイアス3世』通称カルちゃんに導かれ、スキル『訳あり品召喚』を駆使して商いで生きていく決意をする。
これは過酷な現状に弱音を吐かず前向きに頑張る一匹と少女の物語である。
スキル【自動回収】で人助け〜素直な少年は無自覚に人をたらし込む〜
ree
ファンタジー
主人公ー陽野 朝日は(ようの あさひ)は
かなり変わった境遇の持ち主だ。
自身の家族も故郷も何もかもを知らずに育ち、本だけが友達だった。
成人を目前にして初めて外に出た彼は今まで未知だった本の中の世界を夢見て冒険に出る。
沢山の人に頼り、頼られ、懐き、懐かれ…至る所で人をタラシ込み、自身の夢の為、人の為ひた走る。
【自動回収】という唯一無二のスキルで気づかず無双!?小さな世界から飛び出した無垢な少年は自分の為に我儘に異世界で人をタラシ込む?お話…
冒険?スローライフ?恋愛?
何が何だか分からないが取り敢えず懸命に生きてみます!
*ゲームで偶に目にする機能。
某有名ゲームタイトル(ゼ○ダの伝説、テイ○ズなどなど)をプレイ中、敵を倒したらそのドロップアイテムに近づくと勝手に回収されることがありませんか?
その機能を此処では【自動回収】と呼び、更に機能的になって主人公が扱います。
*設定上【自動回収】の出来る事の枠ゲームよりもとても広いですが、そこはご理解頂ければ幸いです。
※誤字脱字、設定ゆるめですが温かい目で見守って頂ければ幸いです。
※プロット完成済み。
※R15設定は念の為です。
ゆっくり目の更新だと思いますが、最後まで頑張ります!
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話
岩永みやび
BL
気が付いたら異世界にいた主人公。それもユリスという大公家の三男に成り代わっていた。しかもユリスは「ヴィアンの氷の花」と呼ばれるほど冷酷な美少年らしい。本来のユリスがあれこれやらかしていたせいで周囲とはなんだかギクシャク。なんで俺が尻拭いをしないといけないんだ!
知識・記憶一切なしの成り代わり主人公が手探り異世界生活を送ることに。
突然性格が豹変したユリスに戸惑う周囲を翻弄しつつ異世界ライフを楽しむお話です。
※基本ほのぼの路線です。不定期更新。冒頭から少しですが流血表現あります。苦手な方はご注意下さい。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる