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もう一人の渡り人編

2.スキンヘッドドゴンべチーン(2)

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「日が暮れる! なんで誕生秘話から入る! 早送りして!」

「ユーゴ、早送りじゃ分からんだろ。ドゴン、もう少し話を先に進めてくれ」

「先に、ですかい? それじゃあ半月後に寝返りを打ったんですけど」

「半月⁉ 半年じゃなくて⁉」

「ああ、すいやせん、半年でした。へへへ」

 フィルがブフォッと噴き出して笑いだす。いや笑い事じゃないぞ本当に。

「なんか、時間稼ぎされてるような気がしてくるんすけど」

「いや、それは考えすぎでしょ。元の世界でもいたよ、こんな人」

 何かを話すときに、前置きがやたらと長い人はいる。旅行に行ったときの話を訊いたのに、旅行に行くことになった経緯の方を念入りに話すような。

 声を大にして言いたい。聞きたいのはそこじゃない!

 面白ければ良いが、話が下手な奴ほどそういうことをする。なんで自分の話に酔っている奴に付き合ってやらねばならんのか。お前にそんなに興味はないぞ。

 でもドゴンは、まぁ、いつかは聞いてもいいかな。

 だが今は急いでいる。このままじゃ埒が明かないので、質疑応答に切り替えた。すると驚くほど円滑に情報を引き出せた。最初からこうしていれば良かった。

 ドゴン一味は柄が悪いが賊ではなく傭兵稼業を行う流れ者の一団だった。ラグナス帝国東部では鉄槌のドゴンとして名が知られているとのこと。少し前まで帝国の東側でシンドゥー王国との小競り合いや賊の討伐に駆り出されていたのだとか。

「それがなんでウェズリーに?」

「ヘマやらかしちまったんでさぁ」

 ドゴンは半狸人であることを意図せず隠していた。見た目は大柄な人でしかないので、普通に仕事ができていたのだが、雇い主から酒に誘われたときに何気なく素性を明かしたところ、酷い差別的な罵倒を受けたという。
 
「『騙していたのか⁉』なんてどやしつけられやしてね。俺らがいた東部の方じゃ、大した差別もなかったんで気にもしちゃいなかったんですけど、雇い主があんまりボロクソに言うもんで、頭にきてぶん殴っちまったんでさぁ」

「拳でだよね?」

「いや、こいつで」

 ドゴンが脇に置いてある大金槌を手で叩く。ご愁傷様です。

「それで、お尋ね者にされちまったんで、こっちに来たって訳でさぁ」

「シンドゥー王国の方が近いんじゃないっすか?」

「あっちでも名前が知られるくらいにゃ暴れてやすからね。安心して暮らせやせんと思いやして。そいでクリス王国に入ったんですが、傭兵の仕事がなくて」

 ラグナス帝国では冒険者というものが存在せず、傭兵ギルドが似たような役割を担っているらしい。ただ、雇い主との伝手ができた時点でお抱えになることが多く、傭兵ギルドで仕事を受けるのは数回程度なのだそうだ。

 雇い主との関係ができてからは、指示された内容をこなすだけで特に何も考えずに生きてきた為、世の中のことをほとんど知らなかったとドゴンは言う。

「冒険者ギルドなんてもんがあるって知ってりゃあ、あちこち歩き回らなくて済んだんですがね。うちの連中が気づかなかったら、まだドサ回りしてやしたね」

「うんうん、冒険者ギルドに登録したんだね。じゃあ話を進めて」

 ドゴンが「へい」と言って首肯する。

「チエって受付の嬢ちゃんが登録からやってくれたんですがね、こっちの話を親身になって聞いてくれて、専属担当ってのになってくれたんでさぁ。そりゃなんだって聞いたら、こっちで探さなくっても、仕事の依頼を用意してくれるってんで、こいつぁ楽だと思いやしてね。この半年ほど、ずっと世話になってるんでさぁ」

「ちょっと待った。半年? それで合ってる?」

「あ、いや半月でした。へへへ」

「どうでもいいよ!」

 フィルが駆け寄ってきてドゴンの頭を平手で叩く。今度は軽めだったからか、ドゴンはツルツルの頭をニコニコしながら撫でている。

 あれ? 今のは俺が悪くないか? なんでドゴンが叩かれるんだ?
 
 
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