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ウェズリーの街編

30.飛び出したのはサラマンダーと襲撃者でした(4)

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「残りは十二人だけど、一応、あの十人も拘束しとこっか?」

「うん、その方が良いと思う」

 フィルが賛同すると、残る二人も首肯した。俺は「じゃあ行ってくる」と片手を振って、単身で十人の側へ駆け寄り、その足元に【過冷却水球】を落としていった。

 大きさも生成速度も上がったので、一個当てれば足がしっかり拘束される。バランスが取れなくなって倒れたところに追加で当てる。

 二つ当てれば十分だろ。

 怯えたような声を上げて、もたもたと逃げようとする十人。それを眺めて、何をしているんだか、と呆れたところで左右に残る十人が動き出した。

 挟み打ちか。そりゃそうだよね。そうなるよね。

 サブロは俺の肩にどうにかしがみついている。それはもう必死に。これ以上の無理をさせるのはこくなので、俺はゆっくりと歩いて後退した。

 左から男が一人飛び掛かってきた。大袈裟な動作で長剣を振り下ろしてきたので【陰盾インジュン】で受けて【陽盾ヨウジュン】で腕に返してやった。

 自分で振るった剣で両腕が切断された男は悲鳴を上げてうずくまった。返り血が【障壁】に遮られる。汚れなくて便利。

 右から飛び掛かってきた男は、俺が何をするでもなく吹っ飛んだ。マスケット銃の銃弾を受けたのだと察した。ヤス君の援護は安心するね。

 すぐに三人目と四人目が左右から短剣で襲ってきたが、一人は両足が切断されて転倒し、一人は短棒が頭に直撃して倒れた。フィルもサクちゃんもやるなぁ。

 最高のパーティーだ。

 五人目はスキンヘッドの巨漢。対峙するなり大金槌を横薙ぎに振ってきた。俺は跳躍して避け、先端部を【陰盾】で受けて【陽盾】で相手の太腿ふとももに返した。

 肉と骨が破壊される嫌な音が聞こえ、巨漢は「ぐぅっ」と呻いて倒れた。そこに【過冷却水球】で追い打ちを掛けて、俺は頼れる仲間の元に向かう。

 サブロが「ピギー」と頬に抱きついて擦り寄ってきた。指で頭を撫でてやる。

 嬉しいのか、よしよし。

「攻撃が止んだね。多分、舐めて掛かってたんだろね」

「奥の二人が逃げようとしてる感じっすね。どうします?」

「捕まえんといかんだろ」

「そうだよね。逃がす意味が分からない」

「別にいいと思うよ。だってあれ、モンテさんとチエだし」

 フィルとサクちゃんが「え⁉」と一言。ヤス君は気づいていた様子。

「やっぱそれしかないっすよねー。告げ口したとしか思えませんもん」

「俺たちがルードに協力するってところまでしっかり話しておいたからね。でもモンテさんが告げ口する程に冒険者ギルドを牛耳ってるとは思わなかったな。こんなことあり得んでしょ。ギルマスまで黙らせてんのかね?」

「いや、呑気にしてないで捕まえんといかんだろ」

「そうだよ。説明させなきゃ。それに二人だって決まった訳でもないでしょ」

 俺とヤス君は顔を見合わせて肩を竦める。それから二人で怪我をして呻く五人の側に向かって歩いた。無傷の五人は、距離を取ってこちらを警戒している。

 ヤス君は俺がやろうとしていることを理解しているようで、マスケット銃で敵を牽制してくれている。

 俺は最初に襲い掛かってきた男の腕を一つ拾い、怯えて逃げようとするその男の肩を掴んで止めて、腕同士の切断面を合わせる。

「治すぞ。動くなよ」

 回復術を使い、くっつけてやる。かなり集中が必要だが、神経までしっかりと繋げるイメージでやると、接合後に動くのは魚で実証済み。

 頼むぞー。人には初めてやるからなー。

 かなり緊張したが、どうにか上手くいったようで、男は動く手を見て涙を流して喜んだ。もう片方の腕は自分で切断面を合わせさせ、両腕を完治させる。それが済むなり、土下座で感謝された。

 こっちも人体実験しちゃってごめんな。と、心で謝る。後になって、自分のしたことの怖ろしさに気づいて動悸がした。切断した腕の断面とか間近で見ると胸が悪くなる。ちょっと血の気が引いていた。

「これから全員の怪我を治すから、よかったら知ってることを話してくれ。ただ、別に言いたくなかったら言わなくてもいいぞ。言ったら自分の身が危険とか、そういう場合は無理に言わなくていいからな。安全を一番に考えてくれ」

 一人ずつ怪我を治していく。男たちは全員、何が起きているのか分からない様子だった。だが大金槌の巨漢が「感謝しやす!」と泣きながら俺に土下座をするのを見ると、無傷だった五人まで武器を捨てて土下座した。
 
 
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