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ウェズリーの街編

16.可愛い珍客(2)

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「なんて可愛いんだ……!」

「既になついてる感じっすね」

「本当にどこでくっついたんだろうな? ダンジョンか?」

「サラマンダーなんていたかなぁ? 魔物ではあるけど」

 食事を与えつつ、俺も箸を進めたが、サラマンダーが「ピギー」と鳴いて仰向あおむけにひっくり返った。お腹がぽっこりしていて、満足げな表情を浮かべている。

「ん? 今、魔物って言った?」

「言った。サラマンダーは魔物だよ。視線が集まってる理由は間違いなくその所為だね。従魔の証も付けてないから、余計に不審がられてるんだと思う」

「従魔って闇術だろ? ヤスヒトが連れてきたのか?」

「そんな訳ないでしょ。無自覚に連れてきちゃう従魔術とか最悪じゃないすか」

 アルネスの街でも、このウェズリーの街でも、従魔を連れて歩いている冒険者はほとんど見たことがない。

 それが何故なぜなのかを知らないだけでなく、従魔についての説明もしっかりと聞いたことがないという事実に気づく。

 光属性を取得した自分には不要な知識だと思っていたからだが、こうなると是非とも聞いておかねばならない。

「フィル、従魔って登録制なの?」

「そうだよ。冒険者ギルドで登録が必要。それと、従魔の証になる装飾品を付けないと駄目だね。基本は腕輪とか首輪。あとは焼印かな」

「焼印は駄目だろ」

 サクちゃんが顔をしかめて言った。その一言に全員が首肯する。

「無駄に苦しみを与えるのは良くないっすよねー。ああ、それはそうと、従魔の登録って誰でもできるんすか? 従魔術が使えなくても大丈夫とか」

「懐いていれば登録は可能だよ。ていうのもさ、従魔術を使えるかどうかなんて分からないからなんだ。簡単な芸をさせるとか試験を作ったりしたらしいんだけど、仕込んでパスしちゃう人もいてさ、意味ないって撤廃されたんだって。冒険者ギルドも判断に困ってるって聞いてる」

「んん? それじゃあ従魔術って何なの?」

 フィルが「んー」と腕組みして唸る。

「従魔術は謎が多くてね、闇術であることと、魔物を従わせる術だってことくらいしか分かってないんだよね。魔物の畜産業を生業にしている人なんかは取得してるんだけど、秘匿ひとくしてるらしくてさ。まぁ、商売だから仕方ないんだろうけど」

「強制的に洗脳して言うことを聞かせるような術なのかな。フィルがマッドピエロ戦で掛かった【ラヴァーズマリオネット】みたいに」

「ずっとその状態っていうのは怖ろしいな。どんな魔物にでもそんな術が掛けられるとしたら脅威きょういでしかないぞ。今回の魔物化騒ぎでも登場しそうだな」

「それもねー。はっきりしたことは言えないんだけど、術者より強い魔物は従えることができないとか、扱える数にも限りがあるとかって話なんだよ。確定情報ではないんだけど、一般的にはそう言われてるね」

 従魔術について分かったことは、よく分からないものだということだった。街であまり従魔を連れている人を見ないのは、小型の従魔以外は出歩かせて良い時間が限られているからなのだとか。

 従魔専用の厩舎きゅうしゃなどもあるらしく、そこでは騎獣にできるような大型の魔物が世話をされているそうだが、ただ懐いているだけのものが厩務員きゅうむいんに怪我を負わせる事故も結構な頻度で起きているらしい。

 そういった場合は、危害を加えた従魔の主に罰則と被害の補償が課されるとのこと。だが、それを利用した似非えせ厩務員の詐欺行為などもあり、従魔を持つことには、あまり良い印象は持たれていないそうだ。
 
 
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