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ウェズリーの街編

14.それで自分の背中が見えたら大したもんだ

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 冒険者ギルドにおもむいて受付で冒険者カードを提示。

 猫人の女性職員が手早く対応、素っ気なく事務的に扱われ、俺たちは大した感動もなくシルバー階級への昇級を果たした。

「なんか慌ててたな」

「辺りを気にしてましたね。急かされてる感じで感動できなかったっすわ」

「確かに、あんまり良い雰囲気じゃなかったね」

「そんなことより、お腹減ったよ。装備の修理を済ませてご飯に行こー」

 腹ぺこフィルの提案で、鍛冶屋で装備品を修理に出した後、初日に話し掛けたドワーフに教えてもらった美味いと評判の食堂へと足を運んだ。

 時刻は午前十一時とまだ早いが、フィルがペコペコなので前倒し。丁度良いので、今日はダンジョンをお開きにしようと提案することにした。

 装備品が修理から戻るのは翌日の昼過ぎとのことなので、それまではおとなしくしておいた方が無難だろう。

 しかし、なんというか……。

 俺は鎧を外した状態なので洋服。何着か持っているので、バリエーションがあるのだが、三人は本当に変わり映えしないなと思う。

 ヤス君とサクちゃんが修理に出したのはプロテクター処理の施されたツナギと作務衣。着替えたのは普通のツナギと作務衣。しかも装備と同色。フィルのローブに至っては自己修復機能がついているので修理不要。

 ここまで貫徹されると、俺が間違ってるように思えてくる。お洒落の概念ってどうなっているのだろうか。

 それはさておき、道を歩くときは大抵ヤス君が先頭でサクちゃんが最後尾。横並びになるのは人通りが少ないときだけ。

 訳ありの身なので、普段から警戒をおこたらない癖が染み付いている。目立たないであろう場所を選ぶのも、もはや当たり前、なのだが……。

 いつも通り食堂のすみにある四人掛けのテーブル席に着き、メニューがないので若い女性の店員を呼んでお勧めを注文したとき違和感があった。視線がおかしい。

 いや、その女性店員だけでなく、まばらにいる他の客たちからもだ。周囲から、まるで珍しいものを見るかのような目を向けられていることに気づく。

「なんだろう? 結構、見られるね」

「昨日はそうでもなかったんすけど。サクやんが注目を集めてますね」

「うん、間違いないな。見られてるのは俺だ」

「和服だから? 装備品の方も和服なのにね。どうしてなのかな?」

 まさか、と思い行動を振り返る。鍛冶屋で着替えたとき、ヤス君とサクちゃんは人目に肌を晒していなかったろうか。

 俺は見ていなかったので、二人に小声で確認する。と、人のいない場所で壁を背にして着替えていたとの返答があった。

「流石にそんなヘマはしないっすよ」

「でも言われるまで気づかなかったな。隠すことが習慣化されてきているってことか。そういうときが一番危ないからな。良い指摘だった。初心に返って、意識するようにしよう」

「相変わらず真面目だね、サクちゃん。けど心当たりがないとなると余計に気になるよね、この視線。やっぱ和服が珍しいからなのかな? 普段はこんな感じじゃないよね?」

「何か服が変なことになってるとか? あれ?」

 フィルが立ち上がり、サクちゃんの背後に回る。

「わ、これだ!」

「え、なんすか? おわっ⁉」

 ヤス君が隣の席からサクちゃんの背を覗いて驚く。二人の反応に「な、何だ⁉ 何があった⁉」とサクちゃんが怯えたような素振りを見せる。

 自分の背中を見ようと焦った様子で左右に首を回すが、それで背中が見えたら大したもんだ。
 
 
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