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ウェズリーの街編
12.ツギハギ殺人熊と荒廃した大地が似合う男(2)
しおりを挟む「なっ、これ包丁だぞ⁉ メンヘラ夫婦劇場か⁉」
「洒落んなってないっすね! DV夫がもたらした悲劇っすよ!」
「これサクヤが暴力亭主を演じちゃったからでしょ! なんとかして!」
フィルが回復術を掛けながら言うが、サクちゃんは斬りつけられた装備の状態を確認しながら戦慄いている。
顔面蒼白で「ああ、マジか、ここも、あ、ここも」と小声でブツブツ言う様子に皆が引いた。こっちの方が怖いわ。
そんな中、マーダードールベアの攻撃は激化していた。あちこち走り回りながらぐるぐると腕を振り回すから、結構な数の刃物が無茶苦茶に散らばって大変なことになっている。もうとにかく距離を取って逃げ回るしかない。
「変なスイッチ入っちゃってるね⁉ ヤス君、これどうにかできるの⁉」
「多分、いけますよ!」
「じゃあ任せていい⁉ 俺は二人を守るので精一杯だわ!」
OKっす! とヤス君が【天眼芯】を置いて【箱庭】に姿を消す。
当初の予定では、最初からヤス君が何かを見せるはずだったが、サクちゃんの行動で予定が大きく狂った。他人の自己紹介は阻害しちゃいかんよ。
俺は規則性なく飛んでくる刃物の爪を打ち払うのに必死。
背後の二人を庇わなければ、もう少し動けるのだが、サクちゃんの戦意喪失っぷりが凄くて声も掛けられない。だって怖いもの。早く自力で立ち直ってくれ。
「ユーゴ、回復は終わったよ! サクヤは僕がフォローするから大丈夫!」
「いや、ヤス君が何かするから、それまで防御に徹する!」
フィルの言葉に背を向けたままで答え、刃物を手の甲で弾く。間に合わないときは【陰陽盾】を瞬間的に展開して防ぐ。
バチッと音を発して刃物が消滅。多分そうだろうとは思っていたが、刃物の爪はやはり魔力で生成された武器だった。
もし一人で戦うとしたらどうするのかを考える。多分、無傷でなければ攻撃を掻い潜ることはできる。致命傷を避けて進み【過冷却水球】を設置して動きを止めて、そこからはひたすら拳での連撃を加える。他には戦技を放つ以外何もできない。
やっぱり、火力がまったく足りないんだよな。
どんな敵が相手でも、イメージトレーニングを行うと大体そうなる。それは俺が火力を求めてこなかったから仕方がないことなのだが、戦技以外での火力を一つは持っておきたいという思いが出てきていた。
というのもゲージを消費する戦技は使い所が難しく、連戦向きではないからだ。この先、間違いなく複数相手の命懸けの戦いが待っている。戦技の打ち止めでジリ貧に陥るのは避けたい。
階層主との戦いもそうだ。倒すまでは部屋から出られないという仕様上、火力がないのは危険。拘束するまでが自分の役目みたいに思っていたが、皆が戦闘不能になった状況を想定すると、低威力の攻撃しか行えない現状は怖ろしく感じた。
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