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ウェズリーの街編
9.成長する賢人(4)
しおりを挟むヤス君は影に入って移動するイメージから、ただ他の場所に瞬間移動するイメージに切り替えたそうだ。
すると自分が死ぬ未来が見えたという。これは俺も経験済みだったので、思わず「分かる!」と言ってしまった。
「ああ、ユーゴさんも同じことしてたんすね」
「したね。というか、俺の場合は近くのものを自分の手元に転移させようとしたんだけどね」
あのとき、頭にブーツがめり込んで死ぬ未来が見えた。リンドウさんから聞いた話もあって、それからは怖くて手をつけてないことを伝える。
「そう、そこなんすよ!」
ヤス君が俺を指差す。
「俺らって発動領域を無視してるってユーゴさんが言ってたでしょ? つまり無意識に無属性転移術は使えてる訳じゃないっすか?」
「いや、そうだけどさ、物質を転移させようとすると途端にそれができなくなっちゃうよね。というか、やろうとすると危険を警告するような死の映像が見えるっていうか」
「ええ、無理に発動すると、多分、実際にそうなるんすよ。なら危険を回避する方法を全部ぶち込んだ術を作れば転移が可能になるんじゃないかと」
「いや、理屈は分かるが……」
「ちょっと、目眩が……」
フィルが額に手を遣りふらふらしだす。顔が真っ青になっていた。確かにこれは衝撃が大きい。俺はフィルを抱っこして自分のベッドに移動する。
「いいすかね。じゃあ続きを話しますね」
ヤス君が言うには、転移に必要なのは、まずは移動先の状況を見る目だという。その場所の状況さえしっかり把握できていれば転移事故は起きない。そう考えたらしい。それで置型の探知機になる物をずっと作りたいと思っていたそうだ。
「まぁ、そういうこともありまして、これは元々のイメージが強かったんで、土属性の取得後には即完成しました」
「確かにさっき【天眼芯】を置いた場所の周辺を探知できるって言ってたね」
「はい。でもそれだけだと駄目だったんです。転移時の魔力が足りなくなるというか、ペナルティーを受けて死ぬって感じの未来が消えなかったんす」
それでまた考えを変えた。魔力消費量が追いつかないのは、転移先が定まらないからじゃないかと推測。
実は数え切れないほどのシミュレート結果が裏では選択されていて、魔力が枯渇する仕組みにされているのではないかと結論づけたのだとか。
「結果がランダムになるってこと?」
「というか、敢えて最悪な結果に結びつくような仕様にされているんじゃないかって思ったんす」
いくらしっかり探知できていたとしても、転移時に必ずズレが生じて死んでしまう。それがこの世界の仕様なのではないかとヤス君は言う。
だが一つだけその仕様から外れているものがある。
ダンジョンの転移装置だ。
あれは地上と特定の場所との行き来が可能。危険のないように座標を修整し、固定してくれている。ヤス君はそこに目をつけた。
だが、そのイメージを術に追加しようとすると消費される魔力の量が余りにも膨大になり、術としては完成しなかったという。
「それで、常設転移装置は諦めて、一度の転移で消滅するって制限を設けてみたんす。そしたら【天眼芯】が完成したって訳ですね」
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