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ウェズリーの街編
8.成長する賢人(3)
しおりを挟むえ、という声が俺とフィルの口から出た。サクちゃんが腕組みして口を開く。
「まぁ、そうなるよな。俺もそうだったが、理由を聞くとな」
「理由って?」
俺より先にフィルが訊いた。ヤス君の脱退が自分の責任だとでも思ったのか、少し焦っているように見えた。
ヤス君は「一週間くらいの予定なんすけど」と前置きしてから言葉を続けた。
「シンドゥー王国に行こうと思ってまして」
思わず「ああー」とフィルと声を重ねて細かく頷いてしまった。
シンドゥー王国。ヤス君の友人であるシンドウ・サアヤが五百年ほど前に興した国。俺はいつか、コーキの興したクリス王国の王都クリストミラーに行きたいと思っているので、ヤス君の気持ちが理解できた。
「でも、何も一人で行くことはないんじゃない?」
俺がそう言うと、サクちゃんが溜め息を吐いた。
「俺もパーティーで行けば良いと言ったんだが、聞き入れてもらえなくてな」
「え、どうして?」
またフィルが訊いた。ヤス君は少し言いづらそうな素振りを見せながらも口を開く。
「あー、単独行動でないと、半月以内にアルネスの街に戻れないからっす」
ヤス君の話では、ウェズリーからシンドゥー王国の王都サーヤナディーラまでは二千キロ以上離れているらしい。またラグナス帝国領を通過せねばならず危険も多いのだとか。
「それ、馬とか使っても絶対間に合わなくない? ここからアルネスの街に戻るのだって、辻馬車使って五日はかかるよ」
「いや、別にサーヤナディーラに行くつもりはないんすよ。少なくともラグナス帝国領は越えておきたいってだけの話なんで」
「ますます分からん。それじゃ何の意味もないだろう」
「それがあるんすよ。言ってなかったっすけど、昨日、土属性を取得したことで、やりたいことが全部形になったんですよ。まぁ、ちょっと実演してみます」
ヤス君が手の平の上に飲料缶のような大きさの漆黒の円柱を作り出す。
それを部屋の中央に置いて、自分は無言で部屋を出ていく。しばらくすると漆黒の円柱が霧散してヤス君が部屋の中央に現れた。ヤス君以外は全員硬直。
「これは【犠芯転移】って術です。あの黒い空き缶みたいなものを【天眼芯】って名づけたんすけど、置いた場所の周辺を探知できるんすよ」
「ちょっと待った、ヤス君、その【天眼芯】っていうものを開発したのは分かった。だけど、だけどだ。それでどうして転移できるのか、これが分からない」
「えーっと、話すと長いんすけど、闇属性を取得した後、俺ずっと転移術を会得しようとしてたんすよ。でも影に入って移動するってイメージがまったくできなくて、これは無理だろうってアプローチを変えることにしたんす」
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