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カナン大平原編
【閑話】アープの何気ない初日の朝(3)
しおりを挟む「デ、デネブ兄様⁉ これはおかしいですよー⁉ アチシたちが田舎者だからって、騙されてるのかもしれませんよー⁉」
デネブは目を回しそうになっているアープの目の前で請求書を裏返す。
そこには『汚れ、生地の傷み等で請求額を増額させていただく場合がございますのでご了承ください。またそれらが顕著で、当店での貸し出しが不可能と判断された場合は、弁償していただくこととなりますのでご注意ください』と書いてあった。
文字を読み進めるうちにアープの顔は段々と青くなっていき、やがてだらだらと汗が流れ始めた。怖ろしくてデネブの顔が見れなかった。
「つ、つまりー、アチシがやらかしちゃったってことですねー?」
「そういうことだな」
「ごめんなさいー」
アープは素直に謝った。叱られるのは目に見えていたので覚悟も済ませていた。たとえそれで今日一日が潰れることになったとしても、それは目を開けて寝る時間が増えるだけだ。そうなった場合、今晩は眠れるかどうかという心配までしていた。
だが、𠮟責の声は浴びせられることはなかった。デネブはただ溜め息を溢しただけで、アープはそこから無力感のようなものしか感じ取れなかった。
実際そうだった。デネブは自分の不甲斐なさを悔いていた。どうしてもっとアープの手綱をしっかりと握っていられなかったのか。これはすべて自分が招いたことだと自責の念に駆られていた。
兄がそういう反応を見せたときは、本当に参っているのだということをアープは知っていた。いくらアープでも流石に心苦しく思った。
(まったく、アチシってやつはー……)
寝不足から連想が続き、肌荒れの次に翌日のおっぱいの調子まで考えていた自分を恥じた。だが恥じただけで、反省はしていなかった。一時的にしたとしても、すぐに忘れてしまうことを知っているアープは無駄な努力はしないと心に決めていた。
「終わってしまったことはしょうがない。これは俺の分まで買い取り扱いになっているから、返却時にどれだけ減額してもらえるかだな。はぁ、どうせ買い取るなら綺麗なままにしておけば、ユーゴ殿にも披露できたんだがな」
デネブはそう言って項垂れたが、アープは雷に撃たれたような衝撃を受けてデネブの倍は項垂れた。もはや前屈のようになっている。そうなるほどに凹んでいた。
自分が原因で借金を作ったことにではなく、ユーゴにドレス姿を見せられないという言葉がアープをそんな状態に陥らせた。
「しかし、一週間か。これは早々に稼がねばならんな……」
「そうですねー……。アチシを売るのだけは勘弁してくださいねー……」
「世界が滅んでもそんなことはあり得んよ。さあ、朝ごはんを食べよう」
しょんぼりしたアープの頭を、デネブはわしゃわしゃと撫でた。
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