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カナン大平原編

【閑話】アープの何気ない初日の朝(2)

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(いけませんねー。今は朝ごはんに集中しないとー)

 食べることばかり考えているように思えるかもしれないが、最近はそこにユーゴに対しての恋愛感情が混ざりこんでいる。たまにごっちゃになって夢の中で料理とキスをしてユーゴを食べてしまうことがあるが、アープはまったく気にしていない。

 そんな夢を見たアープは決まって「間違えちゃったー」と朗らかに笑う。だが渡り人のユーゴからすれば笑い事ではなかったりすることをアープはまだ知らない。
 
 水術と風術を使って寝ぐせを直し、身支度を整えたアープは部屋を出た。族長のときと比べると六畳程度しかない部屋は狭く感じたが、板張りなのが嬉しかった。加えて、誰も勝手に入ってきたりしないし監視の目もないというのは快適だった。

 そういうこともあってアープは上機嫌だったのだが、リビングに出ると更に気分が良くなった。板戸が外されていて、リビングとテラスが一体化し、庭が丸見えで解放感で溢れていた。

 アープは尻尾をぶんぶん振り回してテラスに駆け出す。いてもたってもいられない気分に流されるままに、木製の柵に掴まって遠吠えしようとした。

 が、ふと家の門の前で立ち尽くすデネブがいることに気づく。見るからに青褪めた顔でうつむいている。

(デネブ兄様?)

 アープは首を傾げた。あまり見たことのない表情をする兄に少し気後きおくれして声が掛けられない。

 どうしようと思っていると、デネブの方が先にアープに気づいた。引きった笑顔を向けて片手を上げ、「お、おはようアープ」と朝の挨拶をする。

 アープは「おはようございますー、デネブ兄様ー」と挨拶を返したが、それ以上のことは聞いてはいけないような気がした。だが飽くまでそういう気がしたというだけで、アープの口は既に動いていた。

「どうしたのですかー? ディーバラの臭いでも嗅いだのですかー?」

「移住して早々、郵便受けにそんな物が入れられている訳がないだろう」

 アープに歩み寄りながら、デネブは溜め息をく。手には紙。ミチルの置き土産の請求書である。請求額はきっかり五十万イェルク。金貨五十枚に当たる。

「貸衣装の請求書が入っていたんだが、聞いていた額より遥かに高いんだ」

「おいくらですかー?」

「五十万イェルク」

「ごっ――⁉」

 アープは目玉が飛び出そうになった。高いと言っても、せいぜいその五分の一以内の金額で済むと思っていたからだ。

 デネブはアープに請求書を見せた。そこには支払い期日も書かれていた。猶予は一週間。アープはステボで日にちを確認し、指折り数えてから泡を吹きそうになった。
 
 
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