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カナン大平原編

【閑話】アープの日記(1)

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 私はアープ・ユオ・シー。今日から日記をつけることにした。日記って言っても、私は毎日書き込んでいくつもりはない。

 だって、適当に書いてたらすぐにいっぱいになっちゃうから。紙は高価だし、そんなことは、とてもじゃないけど勿体なくてできない。だから、気が向いたときにだけ書いていくって決めたんだ。

 兄様たちも、それで良いって言ってくれたから、私の日記は、日記じゃないけど、日記ってことにしちゃう。なんだか、可笑おかしくて笑っちゃった。変なの。

 私は、普段はアチシって言う。これは、私がまだ小さかった頃って上手く言えなくて、アチシって言ってたら、デネブ兄様が笑ってくれたから、それが嬉しくて、なんとなく続けているうちに癖になっちゃったもの。

 今でもときどき笑ってくれるけど、苦笑いなんだ。あんまり嬉しくないから直そうと努力してるんだけど、直らない。それで叱られることもあるから、困ったなって思う。でも、私がこうなった原因はデネブ兄様だから、叱る方がおかしいと思う。

 こんなことを書いてるって知られたら、また叱られちゃうから、ちゃんとしたことを書かなきゃって考えてるんだけど、何を書いて良いのか分からない。それで兄様たちに相談してみた。

 そしたら、デネブ兄様は、英雄様のことを書きなさいって言った。ローガ兄様は、そんなもん、好きなことを書いたら良いじゃねぇかって言った。

 私は、兄様たちの言ってることを合わせて、大好きな旦那様のことを書くことにした。本当に、兄様たちは頼りになるなって思う。

 私の旦那様は、デネブ兄様の言う英雄様。そして、ローガ兄様の言う好きなこと。好きな人のことを考えるのって、好きなことでいいのかって聞いたら、それでいいって兄様たちが言ってくれたから間違ってない。私は、旦那様のことが大好きなのだ。

 旦那様と出会ったのは、ほんの少し前。私がまだユオ族の族長をやってたときに、風の属性を帯びたいって、お連れ様と一緒にやってきた。

 誰かが拾ったり盗んだりして読んじゃうかもしれないから、詳しくは書けないけど、旦那様は特別。英雄様って予言が残されていただけのことはある。

 私のいたユオ族は、このアルネスの街からずーっと東に行ったところにあるカナン大平原ってところで遊牧生活をしてる。みんな狼人で、青い毛並を神聖視してて、すごく窮屈で退屈。私は、誰よりも青い毛並みで生まれてきたから、族長になった。

 読み返してみたけど、ちょっとよく分かんないから、順番に書いてみる。

 私は、集落の誰より青い毛並みを持って生まれてきたから、赤ん坊の頃に、ひとつ前の族長をやってたセイオって奴に殺されそうになった。

 そのときに、ローガ兄様が助けてくれたんだけど、その所為で、ローガ兄様は酷い目にわされた。それで、ローガ兄様は集落から逃げたんだけど、そのときに、父様と母様が殺されてしまった。

 残ったのは、ジジ様とババ様とデネブ兄様だけで、私が六歳になる頃には、二人とも死んでしまったらしい。

 私は、別のところに閉じ込められて暮らしていたから、実は家族のことをよく知らない。知っているのは、デネブ兄様のことだけだ。
 
 
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