216 / 409
カナン大平原編
32.カナン大平原を越えよう(32)
しおりを挟むこんなことになるとは思っておらず、準備不足が否めない。
誰が術を使ってきたのかをまるで思い出せないし、使う前に気絶させた者もいるので、選別して呪符を貼ることもできない。というか、そもそもロープが足りない。
「参ったなー。どうしたもんかねー」
「ヨナ婆ちゃんの眠り薬ならあるけど、使う? 魔物用だけど」
「魔物用って、危なそうだな」
「うん、人に使うと一粒で三日は起きないらしいんだよ……」
「怖っ、それ死ぬんじゃないすか?」
フィルよ、何故そんな物を使う提案をした。
「もうローガだけ外に出そうか。結局は説明しなきゃいけないし、この群れの頭なんだから、決定権もあるでしょ」
全員の同意を得られたので、術封印呪符を貼り付けて体育座りに拘束し直したローガを外へ運び出し、顔に水球をぶつける。
起きない。もう一発。
二度目の水球で意識が戻ったようで、ローガが軽く呻いた。
「おーい、起きたかー?」
顔の前で手を振ってやると、ローガはハッとしたように目線を上げた。
それから怪訝な表情になり、軽く俯き、周囲を見回してから俺を睨みつけた。
「手前ぇ、こいつは一体どういうことだ! 何故生かしてる! 早く殺せ!」
「いや、そういう訳にもいかないんだよ。話も聞いちゃったし、アープとデネブさんにローガを救ってくれって頼まれてるからさ」
「あ? アープと、デネブが?」
ローガが呟く。怒りの中に戸惑いが混ざったように見えた。
「話は聞いたっすよー。セイオの糞野郎の所為で酷い目に遭ったそうっすね」
「僕らは君たちに仕事を紹介したくて来たんだよ」
「セイオ? 仕事? 何言ってやがる? 手前ぇら、一体何者だ?」
「ああもう、少し黙って聞け。いいか、選択肢は二つだ」
サクちゃんがローガと目線を合わせ、真っ直ぐに見つめる。
「今お前は岐路に立たされている。忌み子のまま二十三人の仲間と共に悪名高い野盗として死ぬか、それともアルネスの街でアープとデネブと手を取り合って人生をやり直すか。後者の場合は二十三人の仲間も仕事を得る。罪は不問。お前らは死んだことになり、新しい身分を持つこともできる。どうだ?」
「な、何言ってんだ? 罪を不問? 新しい身分? そんなことできる訳がねぇだろうが! 人を馬鹿にするのも大概にしやがれ! とっとと殺せ!」
「分かった。ヤス君【箱庭】から一人出してくれる?」
「うわー、嫌な展開。承諾しなかったら殺すんでしょ?」
「え⁉ ユーゴ、それはいくらなんでもまずいよ!」
俺は肩を竦める。勿論、演技だ。殺そうなんて微塵も思っていない。だが脅すのが手っ取り早いと思ってしまったのだからしょうがない。
それにローガはヤス君とフィルの発言で少なからず動揺しているようだ。
0
お気に入りに追加
431
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう
味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく
ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ
阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。
心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。
「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。
「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~
和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】
「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」
――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。
勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。
かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。
彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。
一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。
実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。
ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。
どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。
解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。
その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。
しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。
――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな?
こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。
そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。
さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
(他サイトでも投稿中)
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる