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カナン大平原編
27.カナン大平原を越えよう(27)
しおりを挟むアープが「え?」と声を出して硬直する。
「英雄様……! それはまさか、ローガたちだけでなく、アープも、この部族と縁を切れるということですか⁉」
「うん、アープは族長やめたいって言ってるし、デネブさんもユオ族に未練はなさそうに見える。ていうか、話を聞く限りじゃ囚われてるような状態のアープの為に残ってたようなもんでしょ? アープが解放されれば心置きなくここから出れるよね?」
それに、デネブさんはアープから離しちゃ駄目だと思う。
こんな娘、おそらくデネブさんにしか制御できん。
「で、フィルよ。俺たちは今、あることで困ってるだろ?」
「僕たちが困ってること? あー! ルームシェアか!」
フィルが大声で言う。だらだら聞いてたのに、急に前のめりになる。現金な奴め。でも素晴らしいリアクションだった。仕方ないから後でアイスをあげよう。
「まぁ、そういうこと。アープとデネブさんとローガの三人は俺たちと暮らす。それか、隣家で暮らすとかね。悪い話じゃないと思う。ただ、二人が黙って集落を出ると、百人以上いる風習にうるさいユオ族が取り戻しに動いちゃうから、そうならないように、その風習大好きな頭を逆手に取らせてもらうんだ」
「どういうことだ?」
サクちゃんが眉間にしわを刻み、ヤス君が手を叩いて笑う。
「ハハハッ、そういうことっすか。それだけ風習を大事にしてるカッチカチな頭なら、予言通りに救済があるって信じてないと逆におかしいっすわ。要は予言の英雄を完成させるんすね」
「そういうこと。俺たちが予言の英雄一行だってことはもうこの集落じゃ周知されてるじゃない? だからそのまんま予言に沿った行動を取るんだよ。そしたら陰で偽物だって吹聴したり疑ったりしてる連中も黙らせることができる」
「つまり、俺たちが訪れた時点で予言が開始されたことになり、血の憎悪には悪名を轟かせているローガたちが当て嵌められる。それを取り除けば、予言に沿った行動になり、俺たちはユオ族から完璧に英雄と認められる訳か」
「それなら、さっき聞いた話で条件は達成するね。けどさー、それで本当にアープたちを解放できるの? やっぱり取り戻しにくるんじゃない? どうやって風習やめさせるつもり?」
「やめさせるつもりはないよ。無理だから」
「え? 何それ? どういうこと?」
フィルが怪訝な顔をする。ざっと見たが、ヤス君だけは気づいている様子だった。含み笑いしてるけど、俺からすると笑いごとじゃないんだよ。少し溜め息が出た。
「色々考えたんだけど、いくら英雄って認められたからって、青毛を神聖視したことが間違いだったとか、赤毛は忌み子じゃなかったとか言ってもさ、頭の凝り固まった連中に言葉だけで改めさせるのは難しいと思うんだよ」
「もはや宗教っすからね。生き神様を持ってかれたらそりゃ普通のやり方じゃ取り返しに動きますよ。ハハハ」
「ヤスヒト、何で笑ってんのさ?」
「はぁ、俺がアープを嫁にもらうからだよ」
えー! という大声がフィルとアープの口から発せられる。
「ユーゴ結婚するの⁉」
「わふっ⁉ アチシを嫁に⁉」
驚くのは分かるが、こういうことだけ反応が機敏なのが困る。デネブさんは理解しているようで、アープに「お座り」と言って、俺に頭を下げた。
「それならば、英雄様とよしみを結ぶという形で、風習にうるさい者たちからも喜びをもって受け入れられると思います。俺も付き添いとしてユオ族から離れることができますし、これ以上ない妙案だと思われます。それで、おそらくそうだとは思いますが、その話は建前ということでよろしいでしょうか?」
「うん、飽くまで建前。連れ出す為の手段に過ぎないよ。式とか祝いの宴とかもなし。俺たちもなんだかんだ忙しいから、そういうのに時間は取られたくないんだ。デネブさんの方で上手くやってもらえないかな?」
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