上 下
210 / 409
カナン大平原編

26.カナン大平原を越えよう(26)

しおりを挟む
 
 
「はーい、話を続けるよ。現状、俺たちが最も必要としているのは戦力だよね。魔物化騒ぎに、ひいてはラグナス帝国の謀略ぼうりゃくに対抗する手駒が一つでも多く欲しいと望んでる。早い話が、そこにローガたちを加えるってこと」

「おお、その手があるか。いや、でも罪はどうするんだ?」

「命の危険を伴うような仕事をさせることを条件に、エドワードさんに頼んで不問にしてもらう」

 ローガは死に場所を求め、連れのワブ族の若者も自暴自棄になっている。危険は望むところだと思う。

「とはいえ、貴重な戦力だからね。簡単に死なないように鍛練は思いっきりしてもらうつもりだけども」

「双方のニーズに合う上、見ようによっては罰を受けてる形になりますからね。貢献で償いにもなるし。俺も同じこと考えてました。で、冒険者ギルドの討伐依頼はジオさんに取り下げてもらうか、完了扱いにしてもらうかするんすね?」

 俺は「そういうこと」とヤス君を指差して言葉を続ける。

「できれば討伐扱いが望ましいね。死んだことにしてもらいたいから。それで新たな身分を用意してもらって、ローガ以外の身元の引き受けはサイガさんとヒューガさんにお願いしようと思ってる」

 元がまともなのが環境でおかしくなっている感じなので、環境次第じゃまた更生するだろう。仮に駄目だったとしても、サイガさんたちにしばかれて終わりだから心配もない。

「で、ローガは兄妹に任せる。一番の癒しになるだろうからね」

 デネブさんが「英雄様……!」と呟いて目を潤ませる。アープは両手を組んで膝立ちになり、満面の笑顔で目を輝かせる。「はいそこ、尻尾で絨毯を叩かない。埃が立つからね」と注意したところでサクちゃんが腕組みし、軽く息を吐く。

「パイラブ村でも思ったが、ユーゴは本当に知恵が働くな」

「サクヤ、よく恥ずかしげもなくその村の名前を口にできるね」

「ぐっ、仕方ないだろ。そういう名前なんだから。名前ってのは呼ぶ為にあるんだ。文句はビルさんに言うのが筋だ」

「間違ってもミヅキさんの前では言っちゃ駄目っすよー。どうしてもってときは開拓村とかスパイキークラブの村って略さず言うのをお勧めします。普通に引くんで」

「あー! そういや俺、リンドウさんとこにスパイキークラブのお土産渡してないや! うわー、すっかり忘れてたよ!」

 不意に頭を殴られたような気分。【異空収納】内にはどれだけあったろうか。確認すると、まだ二十匹はあった。お土産にするには十分な数だろう。ホッと一安心。

「ユーゴ、話が変わってるよー」

「ああ、ごめん。えー、それでね、ローガ一味がいなくなることで、ほぼワブ族は存続不可になる。だから、ユオ族の中で風習を気にしない人たちを移住させるってのはどう?」

 アープとデネブさんが目を見開いて顔を見合わせる。そして難しい顔をした。何か問題があるのか訊くと、あちらの生き残りはユオ族に対し恨みを抱いているとのこと。

「そりゃ当然っすね」

 ヤス君が呆れたように鼻で笑う。

「セイオは部族間に嫌なもんを残しましたよね」

「一人が馬鹿をやるとすべてが嫌われるってやつだな」

「でも十人くらいしか住んでないんでしょ? ローガたちがいなくなったら、今度はそっちが野盗や魔物に襲われちゃったりするんじゃない?」

「あのね、君たち、そういうのごちゃごちゃ考えなくて良いの。デネブさんはもう移住者募っちゃってください。そんでもう、移住しちゃってください」

 デネブさんが「は、はぁ」と納得いかない様子。

 ええい面倒臭い。話が進まん。

「あっちにしたところで、背に腹は代えられんのですよ。こっちにも風習やら毛の色やらで出て行きたがってるのがいるでしょうし、とっとと進めてください」

「わ、分かりました」

 デネブさんが頭を下げる。ヤス君が肩を竦めた。

「強引っすけど、それが一番っすよね。ユオ族に招き入れるって方が難しいでしょうし。それで、予言と絡ませるって話はどうなってるんです?」

「それなんだけどねー……」

 昨晩デネブさんが『血の憎悪を断ち切る』と言ったことがどうにも引っ掛かった。確か予言では『血の憎悪を打ち払う』と言っていたはずなのに。何故、違う表現が出たのか。

「『断ち切る』って聞いて、俺の頭には『縁』って文字が浮かんだんだよ。これがね、何らかのメッセージなのかなと。それで『打ち払う』って表現もさ、殺すってイメージとは結びつきにくいでしょ? どっちかって言うと『追い払う』って感じじゃない?」
 
 なんとなく、言葉を組み合わせることで最良が導き出される気がしたことを話す。

「つまりね、ローガ一味、アープ、デネブさんの三人、ワブ族の生き残りも希望者がいればそれも含めて、カナン大平原と『縁を断ち切り』、土地から『追い払う』ことで、すべて解決できるなと思った訳だ」
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...