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カナン大平原編

19.カナン大平原を越えよう(19)

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「何で木箱に?」

「封印してあるんですー」

 その理由はさておき、俺は祠に近づき魔力を流す。

 すると、耳の奥で笑い混じりの楽しげな子供の声が響いた。

「汝、その身の土を消し、風と共に歩むか」

「はい」

 祠の扉が開き、緑色の光球が現れ、すぐに扉が閉じた。

「はー、いつ見ても無駄がないですー」

「言われてみれば確かに。無意味に長い演出があるより良いよね」

「ほほー、英雄様も無駄がお嫌いですかー。話が分かりますねー」

 君の動きは無駄が多いけどね。と言いそうになるのをぐっとこらえて別の質問をしようとしたのだが、俺が訊こうと思っていたことをサクちゃんが先に訊いた。

「話の腰を折って悪いが、何故、祠を持ち運んでいるんだ?」

「他の祠と違ってー、風の精霊様の祠はー、土地に根づかないのですー」

 他の祠はその地に根付くので動かすことができないが、風の祠は違うという。

 動くので外に置いておくと誰でも盗めてしまう。かといって室内に置いても封印しておかないと別のところに移動してしまう。

 どこにいったか分からなくなると困るので、ユオ族が管理と守護する役目を担っているとのこと。

「そりゃまた自由奔放な祠だね。だから封印してるのか」

「祠も色々あるんだね。それでユーゴ、どうするの? 目的は達成したけど?」

 俺は腕組みする。どうしたものか。

「んー、確かにもうここにいる理由はないけど、予言について教えられてるからね。その血の憎悪とかいうものについて詳しく聞いておいた方が良いかなと思う。予言の通りだとしたら、既にその影響が及んでいるってことなんでしょう?」

 アープの表情が曇った。そして答えを拒否するかのように口をつぐんで俯き、だんまりを決め込んでしまった。

 あまりの変化に驚き、俺たちが顔を見合わせて小首を傾げていると、デネブさんが頭を下げて口を開いた。

「申し訳ありません。俺たちは、英雄様が来られるまで、それが予言にある血の憎悪だとは思いたくなかったものですから。族長の非礼、お許しください」

「いや、言いたくないなら無理に訊くつもりもないですし」

「いえ、訊かれずともこちらから話すつもりでおりました。血の憎悪について話すにあたって、まずはワブ族についてを知ってもらわねばなりません」

 デネブさんは険しい表情で、ワブ族について話し始めた。

 現族長はローガ・ワブ・シー。濁った血のような赤黒い毛並みの狼人。

「ワブ族は盗賊集団であるとの噂が巷に広がっていると聞き及んでおります。しかし元々はそうではなかったのです」

 ワブ族は、ほんの少し前まではユオ族と同じく馬や羊の放牧をし、魔物を狩り、拠点での畑仕事をする穏やかな部族だったらしい。

「それを狂わせたのが、血の憎悪。このユオ族の、恥ずべき風習が生み出した者なのです」

 デネブさんの表情は益々険しくなり、苦虫を噛み潰したようなものになる。アープはといえば、先ほどまで見せていた、どこか人を食ったような態度と表情が鳴りを潜め、目に見えて暗く沈んでいた。

「それで血の憎悪というのは? 予言の中にもありましたけど」

「状況からみて、おそらくローガのことです。毛色も赤く、憎悪も深いので」

「それはまた随分と分かりやすい」

 俺は予言の的確さに思わず苦笑する。そこで隣から「んー」というフィルの唸りが聞こえた。顔を向けると何やら考え事をしている様子だった。

「赤かー。僕、赤毛の狼人って見たことないかもー」

「フィルでもか。じゃあ相当珍しいんだな」

「見掛けないから印象に残るよねー。俺もバッチリ覚えてるもん」

「え、ユーゴ見たことあるの?」

「うん、アルネスの街にいるよ。イノリノミヤ信徒会の会長さん。ローズさんっていう若い女性。奇麗な赤い毛並みで凛とした美人だよ」

「へー、アルネスの街にもいるんだねー。神社なんてほとんどいかないから。あ、ごめんなさいデネブさん! 話の続きをお願いします!」

 フィルがデネブさん放置に気づいたようで、慌てて頭を下げて手で先を促す。デネブさんは表情を変えずに頷き、口を開いた。
 
 
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