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カナン大平原編
15.カナン大平原を越えよう(15)
しおりを挟む五百年前、ラグナス帝国から亜人族を救った者がいた。
名はコーキ・クリス。ふらりと現れた素性の知れないその男は、奴隷狩りの手から逃げ隠れして生きていた亜人族をまとめ上げ、解放軍を作り上げた。
コーキの率いる解放軍の勢いは凄まじく、人族至上主義を掲げるラグナス帝国の征服から各地を解放。差し向けられた征伐軍を打ち破り、退け続けた。
望まず奴隷となっていた亜人たちは次々と救い出され、コーキは虐げられていた亜人たちの希望の光となった。
その輝きに鼓舞された亜人たちは、自由と尊厳を求めて立ち上がり声を上げた。
怯えるな。嘆くな。屈するな。主の下に集え。
コーキ・クリスが我らの主だ。
国を持たぬ英雄との戦争により、非道を行い続けてきたラグナス帝国は、メリセーナ大陸西方の領土をすべて失い、国力を大きく落とすことになった。
「――というのが、クリス王国が建国される以前の英雄譚でーす。しかし驚きましたー。まさかアチシの代で予言の英雄様が来られるなんてー」
「族長、お座り」
「デネブ兄様ー、アチシは犬ではないのですよー?」
デネブさんが片手で目を覆う。如何ともし難いと言いたげに。
俺たちはユオ族の集落に招かれ、族長の家で歓待を受けている。
案内されたのは絨毯の敷かれた石造りの広い部屋。調度品は装飾華やかだが小さく数も少ない。時期によって拠点を移すからこその無駄のなさ。簡素ながらも趣きある生活感に好感が持てた。
訪問前、デネブさんに礼儀作法について訊いたところ、特にないとのことだったので床で胡座を掻いている。
そのときに「礼儀など族長には不要なものです」とげんなりした様子で言われた意味がよく分かった。
この族長、アープ・ユオ・シーは敬うのが難しい。
心で呼び捨て決定だ。
というのも落ち着きがない。話し方が早口で独特。そして信じられない程に若い。デネブさんの妹で、まだ十六歳とのこと。
体格に見合わない豊満な胸と尻の持ち主で、着ているのが民族衣装にも拘らず目の遣り場に困るのもまた理由の一つ。
この小柄で活発そうな獣耳少女が族長に選ばれた理由は、部族で最も美しい青い毛並みだそうだ。ユオ族では、代々青色を神聖視しているのだとか。
それを教えてくれたのはアープ本人。聞いてもいないのに、自己紹介のときにペラペラと喋り倒した。話している間もあっちへこっちへと動き回って忙しない。
話が済んで間もなく、侍女らしき女性が二人、果物の入った籠や酒樽などを運んできたが、誰も酒は飲まないし、もう夕食は済んでいるからとお断りした。
「わふー、英雄様はお酒を飲まないのですかー?」
「飲みませんね。あまり好きではないので」
「残念ですー。酔ってくれたらどさくさ紛れに子種をいただ――」
デネブさんが素早くアープの背後に回り込んで拘束し、その口を塞ぐ。
「英雄様。失礼致しました。お忘れください」
アープがもがもがと声を上げ暴れようとしているが、デネブさんは足まで絡めて完全に動きを押さえている。もう手慣れたものなのだろう。
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