【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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カナン大平原編

1.カナン大平原を越えよう(1)

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 地平線を目にしたのは初めてだった。

 穏やかな日差しの中、風が滞ることなく吹き抜けていく。揺れる淡い緑の草原と濃緑の灌木かんぼくの枝葉。広大なカナン大平原を前にして、俺たちは息を呑んでいた。

「僕、初めて来たけど凄いね」

「ここまで雄大な自然って感動しますよね」

「絶景だよな。夕陽とか夜空とか見てみたくなる」

「それだ。今日は皆で景色を見ながらご飯を食べよう」

 俺たち渡り人組と転生者フィルのパーティーは、徒歩で火山洞窟の街ウェズリーに向かっている。

 目的は三つ目の属性取得。いずれ取るつもりでいたが、そう悠長に構えていられなくなってしまった。

 数日前のドグマ組長魔物化事件。あの一件で、俺たちは大急ぎで強くなる必要が出てきてしまったのである。

 リンドウさんたちから、アルネスの街を守る為に……。

 理解はできるが、やはり言葉にすると意味不明だ。俺もまだ混乱しているので、順を追って整理していくことにする。

 あの日、俺とサクちゃんがデモノイドと戦っている裏で、ヤス君とフィルは不審な黒いローブを着た男を見つけていた。

 その男はヤス君たちを目にした途端に走って逃げ出したらしい。フィルと二人で追い掛けたそうだが、行き止まりに追い詰めたところで転移術を使われてしまったとのこと。

 要するに、釣り。俺たちは戦力の分散を目的とした敵の策にまんまと引っ掛かってしまったという訳だ。

 去り際に「何も知らん愚か者共が。トウカセンをどうにかせねばニーラは終わるぞ」という捨て台詞を残していったそうだが意味不明なので置いておく。

 何にせよ誰も怪我をせずにデモノイドを討伐できたので問題はない。敵の目的はエドワードさんを害することだったと思われるので、その思惑を潰したと言っても良いだろう。

 その後の話、なのだが――。

 エドワードさんはジオさんと協力し、衛兵隊と冒険者によるドグマ組の一斉捕縛を行った。

 結果、ハンとドグマ組長の魔物化に関係していると思しき黒いローブを着た男の捕縛こそ叶わなかったものの、急襲作戦が功を奏し、ほぼすべての構成員の捕縛に成功。

 それと同時に、ハンの経営する店舗の営業取消しをエドワードさんが領主権限で断行。アルネスの街にあるハンの資金源を潰すことにも相成った。

 そして、ハンは重要参考人として指名手配されたのだが……。

 それからがややこしい。

 ミヅキさんの証言を基にハンの人相書きが描かれたのだが、それを見たサイガさんが「こりゃ誰だ」と眉をひそめた。ヒューガさんも同じく「ハンではないですね」と否定した。

 それでサイガさんの証言で描かれたが、仕上がった物を見たミヅキさんとヒューガさんがかぶりを振ってしまう。

 ではヒューガさんの証言で描かれたハンはどうだったかというと、なんとヤス君とフィルが見た黒いローブの男だった。

 ハンの顔を見たことのある者たちにそれぞれの人相書きを見せたところ、やはり意見が分かれた。

 だがすべて違うというものは誰一人として現れなかった為、その三人がハンを名乗っていたということが判然とした。
 
 
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