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ドグマ組騒動編
17.ドグマ組長のお見舞いに行こう(12)
しおりを挟む二人が歯を食いしばり、怒りに身を震わせているのだが、俺はそんな風にはなれなかった。ドグマ組長があまりにもお人好し過ぎて、自業自得な部分が大きいのがどうにもやるせない。
ノッゾさんのときはまだ自分を重ねられる部分があったので怒りもできたが、ドグマ組長に対してはそれができない。心の内も憐れみと呆れだけで占められている。
孤児院の面倒だけ見てれば良かったと思うんだけどなぁ……。
たらればだが、そうしていればドグマ組などというものは存在していなかっただろうし、ドグマ組長も存在しなかったはずだ。
孤児院の優しいドグマ院長がいれば、サツキ君が酷い目に遭うこともなかったし、ドグマ組長が毒を盛られて、というか塗られて、こうして床に伏せっていることもなかっただろう。
それでも、ハンは別の誰かを隠れ蓑にしていただろうか?
難しい。ドグマ組長が野心を育んだ張本人である可能性も否めない。二人が巡り会っていなければこんなことにはなっていなかったのかもしれない。バタフライエフェクトではないけれど。
でも三つ子の魂百までとも言うしなぁ……。
無駄な思考だと振り払うが、やるせなさまでは払えない。
ヤス君たち早く帰ってこないかなー。
実のところ、サクちゃんとミヅキさんが二人の世界に入り込んでいるので正直かなり居辛い。それはもう帰りたいほどに。
誰に言われなくとも分かる。俺、邪魔。
ない頭を彼是と働かせてどうにか精神を保たせているが、元々堂々巡りを嫌う質。という訳で、流石にもう限界。
誰か助けてー!
と心の断崖絶壁から荒ぶる海に向かって叫んだところでガラガラと引き戸の開く音がした。
はぁ、待ち人来る。ようやくだよもう……。
「見て参ります」
「いや、ミヅキさんはここにいてくれ。俺が行く」
サクちゃんが立ち上がるのと同時に、バタバタと廊下を駆けてくる音がした。間もなく、研究員のような白衣を着た細身の男が、開け放たれた障子戸の向こうに現れた。
髪はボサボサ、無精髭を生やしたその男は、眼鏡越しに俺と目が合った直後に、駆けていた足を止めようと踏ん張ったが、靴下で滑って廊下の上で浮いた。
「レイさんっ!」
フィルの声が聞こえてすぐに、レイさんはズドーンと尻もちをついた。廊下でぷるぷると震えながら「ぬおお」と呻き、手で腰を擦りつつ怒鳴る。
「誰だねっ! こんなに廊下をピカピカに掃除したのはっ!」
「いや、そこ怒るとこじゃないっすよレイさん」
「エノーラさんが言った通りだね。そそっかしいって」
「まぁ、そう言ううおおっ!」
エドワードさんも部屋の前で転倒した。レイさんと同じく靴下が滑ったようで、ズデーンと横倒れになり、部屋が揺れる。体が大きいので派手さが違う。床を相手に倒れ込みエルボードロップ。
それを見ていたレイさんが、ずれた眼鏡の位置を戻しながら真面目な顔で「大丈夫ですか?」と訊くも「いや、お前もな」と返される。俺は一体、何を見せられているのだろう。
「茶番はいいんで、早く見てもらっていいすか?」
「そうですよ。ふざけてる場合じゃないでしょ」
ヤス君とフィルが冷たく言い放って部屋に入ってくる。レイさんとエドワードさんは二人に叱られてしゅんとしながらその後に続いて部屋に入ってきた。
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