【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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ドグマ組騒動編

14.ドグマ組長のお見舞いに行こう(9)

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 待っている間、ミヅキさんがお茶をれてくれた。こっちに来てから初めて飲む急須からの緑茶で、心遣いを感じる飲みやすいぬるめのものだった。

 部屋は障子戸が開け放たれ、縁側の板度も取り外されている。残暑の厳しい日が続いているとはいえ、日が落ちるのは随分と早くなってきた。

 既に日は傾き、辺りが赤く染まっている。「そろそろ夕餉ゆうげを支度してまいります」とミヅキさんが場を離れようとしたので、不要だと言って止めた。

「ユーゴ、まさかとは思うが」

「そのまさかだサクちゃん」

 俺は【異空収納】から食事セットを取り出した。宿場町で一度昼食を食べそびれてしまった経験から、稼いだ金にものを言わせて、器から鍋から調理器具を大量購入し、食材や調味料、香辛料に至るまで市場でふんだんに取り揃えた。

 そして、訓練の後にエドワードさんの邸宅にお邪魔して、厨房をお借りし、連日の如く調理を行い続けてきたのである。

 という訳で俺の【異空収納】にはカレー、シチュー、ポトフ、豚汁などの汁物に炊きあがった白米を入れたおひつやパンが幾つも入っている。おかずも焼き魚から焼肉、ステーキ、ハンバーグ、添え野菜やサラダまでバットに入れてある。

 どこでもバイキングマンだ。ただ、麺類はパスタしか用意できていない。ラーメンと素麺が恋しいので、いつかどこかにないか探したいと考えている。

 何を食べたいかを訊いたところ、ミヅキさんは名前を聞いてもどんな料理なのかが分からないというので、カレーを出してみたのだが、露骨ろこつに引かれた。

「まぁ、食べたことがないとそうなるよな」

「鍋にそんなものを入れて煮込む訳がないでしょうに」

 器に盛って出すと、香りに惹かれたようで、すんなり口にしてくれた。

「これは……大変美味しゅうございます!」

「美味いよなぁ、本当。毎日食べれる」

 感激してもらえたのが喜ばしい。幸せ愉快犯の本領発揮といったところ。

 ドグマ組長にも、米から炊いた塩粥が用意してあったのだが、目を覚まさないことにはどうにもならないので、食事の後は静かに待つことにした。

「そういえば、こっちは虫の音がほとんどないよな」

「そうだね。蝉も鈴虫も蟋蟀こおろぎも鳴かないもんね。いないのかな?」

「お義父とう様も、よくそう言っておられました。聞こえているうちは煩わしく思っていたものが、いざ聞こえなくなるともの寂しくなると」

 俺もサクちゃんも首肯した。

「あちらでは、そんなに虫の音が響くのですか?」

「それはもう。こちらとは真逆です」

「朝早くから物凄い鳴くからな。夜は風情ふぜいがあっていいけど」
 
 
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