176 / 409
ドグマ組騒動編
14.ドグマ組長のお見舞いに行こう(9)
しおりを挟む待っている間、ミヅキさんがお茶を淹れてくれた。こっちに来てから初めて飲む急須からの緑茶で、心遣いを感じる飲みやすい温めのものだった。
部屋は障子戸が開け放たれ、縁側の板度も取り外されている。残暑の厳しい日が続いているとはいえ、日が落ちるのは随分と早くなってきた。
既に日は傾き、辺りが赤く染まっている。「そろそろ夕餉を支度してまいります」とミヅキさんが場を離れようとしたので、不要だと言って止めた。
「ユーゴ、まさかとは思うが」
「そのまさかだサクちゃん」
俺は【異空収納】から食事セットを取り出した。宿場町で一度昼食を食べそびれてしまった経験から、稼いだ金にものを言わせて、器から鍋から調理器具を大量購入し、食材や調味料、香辛料に至るまで市場でふんだんに取り揃えた。
そして、訓練の後にエドワードさんの邸宅にお邪魔して、厨房をお借りし、連日の如く調理を行い続けてきたのである。
という訳で俺の【異空収納】にはカレー、シチュー、ポトフ、豚汁などの汁物に炊きあがった白米を入れたお櫃やパンが幾つも入っている。おかずも焼き魚から焼肉、ステーキ、ハンバーグ、添え野菜やサラダまでバットに入れてある。
どこでもバイキングマンだ。ただ、麺類はパスタしか用意できていない。ラーメンと素麺が恋しいので、いつかどこかにないか探したいと考えている。
何を食べたいかを訊いたところ、ミヅキさんは名前を聞いてもどんな料理なのかが分からないというので、カレーを出してみたのだが、露骨に引かれた。
「まぁ、食べたことがないとそうなるよな」
「鍋にそんなものを入れて煮込む訳がないでしょうに」
器に盛って出すと、香りに惹かれたようで、すんなり口にしてくれた。
「これは……大変美味しゅうございます!」
「美味いよなぁ、本当。毎日食べれる」
感激してもらえたのが喜ばしい。幸せ愉快犯の本領発揮といったところ。
ドグマ組長にも、米から炊いた塩粥が用意してあったのだが、目を覚まさないことにはどうにもならないので、食事の後は静かに待つことにした。
「そういえば、こっちは虫の音がほとんどないよな」
「そうだね。蝉も鈴虫も蟋蟀も鳴かないもんね。いないのかな?」
「お義父様も、よくそう言っておられました。聞こえているうちは煩わしく思っていたものが、いざ聞こえなくなるともの寂しくなると」
俺もサクちゃんも首肯した。
「あちらでは、そんなに虫の音が響くのですか?」
「それはもう。こちらとは真逆です」
「朝早くから物凄い鳴くからな。夜は風情があっていいけど」
0
お気に入りに追加
435
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~
うみ
ファンタジー
恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。
いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。
モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。
そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。
モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。
その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。
稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。
『箱を開けるモ』
「餌は待てと言ってるだろうに」
とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
流星痕
サヤ
ファンタジー
転生式。
人が、魂の奥底に眠る龍の力と向き合う神聖な儀式。
失敗すればその力に身を焼かれ、命尽きるまで暴れ狂う邪龍と化す。
その儀式を、風の王国グルミウム王ヴァーユが行なった際、民衆の喝采は悲鳴へと変わる。
これは、祖国を失い、再興を望む一人の少女の冒険ファンタジー。
※一部過激な表現があります。
――――――――――――――――――――――
当サイト「花菱」に掲載している小説をぷちリメイクして書いて行こうと思います!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる