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ドグマ組騒動編

13.ドグマ組長のお見舞いに行こう(8)

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 見当違いかもしれないが、断れそうもないので推測を話すことにした。

「まず、その医者は毒を処方していた時点でハンとの関わりがあると思います。ドグマさんがこうして隠遁生活に追い込まれ、ハンが後釜に座ったところからもまぁ、ほぼ間違いないでしょう」

「その医者ってなぁ、長い付き合いなのか?」

「ええ、それも十数年前からです。何分、昔のことなので、はっきりとは覚えていないのですが、確か、お義父とう様が酒場で意気投合したとかで……」

「続けますよ。サイガさんの話だと、ノッゾさん、イゴールさん、ミルリナさんたちは数年ずっとくすぶってたんですよね?」

 そうだ、とサイガさんが頷く。

「それが絶好調だって言って、急に一皮剥けやがった。ああ、そういやぁ、シャフトたちから、そういう冒険者がえれぇいるって報告が上がってきてたな」

「えぇっ⁉」

 思わず大声になってしまった。部屋にいる全員が驚いた顔で俺を見る。でも一番驚いてるのは俺だ! 譲るものか!

「な、なんでぇ急に? どうしたってんだ?」

「どうしたもこうしたも、厄介極まりない話になりますよ!」

 怖気おぞけが走った。俺は【異空収納】から地図を取り出して広げる。

「ユーゴ、何で地図なんか……」

「サクちゃん、取り敢えず聞いてくれ。アルネスの街はここ、メリセーナ大陸の西南端にある。そして、北上すると嘆きの森が広がってる。その東には北に向かって伸びるレンゲ山があるね」

「ああ、王都クリストミラーは東をレンゲ山、南を嘆きの森に守られてるから、残る北と西に要塞の街を築いてあるってリンドウさんが言ってたな」

「うん、その要塞の街モーゼスはラグナス帝国との国境沿いにある。そして、嘆きの森を切りひらいた街道でアルネスと繋がってる」

 サイガさんが眉根を寄せる。

「おい、ユーゴよ、俺ぁ今えらく背筋が寒くなったんだが、ラグナス帝国が関わってるかもしれねぇっつうのは、まさか、このアルネスの街を落とそうって腹が見えるからか?」

「ええ、そのまさかです」

「何だって⁉」

 サクちゃんが地図を食い入るように見る。ミヅキさんも顔を青褪あおざめさせて、地図の東側を確認する。

「ウェズリーの街……! ここもカナン大平原を挟んでアルネスと繋がってる国境沿いの街だ……!」

「そう、それでウェズリー山が天然の要塞になってるから、外は守りが堅固。ただ見ての通り内は大平原が広がってるだけ。モーゼスにしたってそう。国境には防壁が延びてるけど、背後はガラ空きなんだよ」

 ここは冒険者の街。どこからでも人はやってくる。力を求めている者に溢れている。くすぶる者の数も多い。そういった者たちに、力を与える施術と称して魔物化の呪いを施す者がいたとしたら……。

「冒険者の魔物化は、クリス王国を内側から崩す為にやってるってことか! それがハンの目的か! なんて奴だ! 生まれ育った街まで……!」

 サクちゃんが憤慨した様子で言う。確かに怖ろしいことだが、俺は無意識にもっと怖ろしい展開を脳裏のうりに描いていた。

 それはリンドウ一家とミチルさんの激怒。

 あの人たちが怒ったら魔物の氾濫どころか国ごと消え去るんじゃなかろうか。どう考えたってそっちの方が怖い。

「い、いやぁ、こうして予測できた訳だし、そこまで上手くいくかは分からないよ?」

 だが、仮に冒険者たちが一斉に魔物化し、相手側にそれを操れる術師がいるとしたら、アルネスの街に魔物の軍勢が出来上がってしまうことになる。

 最近妙な動きを見せているというラグナス帝国が同時に動けば、モーゼスとウェズリーは魔物との挟撃を受けることになる。

 しかも魔物の方は一体だけでも相当な強さになるはず。というのも、ノッゾさんたちが転じたのはダンジョン下層に出現する魔物と聞いたからだ。あるいは、転じる者すべてがそうなるかもしれない。

 という危惧だけは伝えておく。

「むぅ、こうしちゃいられねぇな。ユーゴ、医者の方は任せとけ」

 サイガさんが立ち上がり、足早に部屋を出ていく。それを見て俺は焦った。指示だけならともかく、サイガさんに出て行かれるとヒューガさんも護衛の人たちもついて行ってしまう。

 可能性は低いが、俺とサクちゃんが渡り人だという情報をハンが掴んでいるとしたら、俺たちは袋の鼠だ。もしかすると既に周囲にハンの手の者が隠れ潜んでいるかもしれない。

「サクちゃん、俺たちもサイガさんと一緒に行かないとまずい。それか引き止めるかしないと。このままじゃ危ない」

「それは分かってるが、ヤスヒトたちはどうするんだ? レイさんを呼びに行ったんだろう? 入れ違いになるぞ」

「そうか。そうだよねぇ。あー、しまったなぁ」

 くそ、こういうところが駄目なんだ俺は。

「あの、私もそれなりに戦えますので、お待ちになっては如何いかがでしょう」

 頭を抱えていたとき、ミヅキさんがそう言ってくれたので少し救われた。お言葉に甘えて、三人でヤス君たちの帰りを待つことにした。
 
 
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