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ドグマ組騒動編
10.ドグマ組長のお見舞いに行こう(5)
しおりを挟む馬車が止まったのは小料理屋のような雰囲気の漂う、竹林に囲まれた門前だった。
こんな侘び寂びの感じられる場所がアルネスの街の中にあったのかと驚かされたが、それ以上に驚いたのが馬車の数。
まったく気づかなかったが、俺たちの乗っていた馬車に数台の馬車が追従していた模様。
そこからヒューガさんと同じ黒いスーツ姿の男たちがわらわらと降りてきて、門前の周囲に等間隔に並んだ。
「うわ、こんなにいるの⁉ 映画でしか見たことないよこんなの⁉」
「ハハ、ちょっと引きますね。ついてきてるのは知ってましたけど、ここまで乗ってるとは思ってなかったっすわ」
「正に要人護衛だな。いや、これは葬式だな」
えぇ……? それ言う……?
三人で呆然と立ち尽くしていると、ヒューガさんが歩み寄ってきた。
「ユーゴさん、俺はこいつらと外の警戒に当たります。中は庭があるんですが、そこには誰も配置しません。大きな声では言えませんが、ドグマ組……いえ、ハンの手の者が紛れ込んでるかもしれませんので」
開拓村の偽衛兵のことが思い出される。確かに危惧すべき点だ。
「分かりました。庭は俺たちで対処します」
「お願いします。まぁ、そうは言っても、護衛対象が相当なもんですからね」
「ハハハ、間違いありませんね」
ヒューガさんとそんな会話をしている間に、門の向こうから着物姿の女性が一人現れていた。やや長身の穏やかな雰囲気を纏うエルフで、こちらに向かい所作美しくお辞儀をする。
「お待ちしておりました。案内役を務めさせていただきます、ミヅキと申します。主人は伏せておりますゆえ、失礼もあるかと存じますがご容赦を。大したおもてなしもできませんが、どうぞ中へお入りになってください」
ミヅキさんに促され、エドワードさん、サイガさんの順に門前へと向かう。俺たちはヒューガさんと頷き合い、少し遅れて二人に合流した。が、ミヅキさんは案内に移らず、ハッと息を呑む。
「あ、あの……」
明らかにサクちゃんに反応していた。向けられた手が震えていて動揺が見て取れる。最も近くにいたサイガさんが、ミヅキさんの背に軽く手を当てる。
「お前ぇの思ってる通りだよ。あいつぁサクヤ。ドグマの息子だ」
「あ、ああ……イノリノミヤ様、感謝します」
ミヅキさんが涙を流し、顔を覆ってしまう。
「イノリノミヤ信徒か」
「そうみたいっすね。嫌な感じもしないっす」
「前から思ってたけど便利だよね、ヤス君の人を見る目」
小声で遣り取りしながら様子を見る。
「悪いが、ドグマを一人にはしておけねぇ。案内を頼む」
ミヅキさんは「はい」と気の毒になるほど必死に頷いて、エドワードさんの前に立ち、しずしずと歩き始めた。どこで習ったんだろうか、と思う。
「サクちゃんのお父さんって、日本舞踊とかそういう関係のお仕事してた?」
「いや、俺もよく知らんが、俳優を目指していた時期があったとは聞いてる」
「じゃあ、そのときの知識っすかね? お茶とか華道とかやってる人みたいっすよ、あのミヅキさんって人。意外でしたわ、エルフに着物って似合うんすね」
小声会議をしながら石畳の上を歩く。組長が静養と言うからどんな和風の豪邸が待っているのかと思ったが、隠遁者が暮らす家のような印象の小さな和風家屋だった。
招かれるまま中へと入ると、板張りの廊下と障子戸、そして幾つかの部屋。中は畳が張られているだろうと想像がつく。
田舎の家というか、古民家というか。なんだか懐かしい感じがするが、そういった家屋特有の埃っぽさはなく、黴臭さもない。
床もピカピカで掃除が行き届いているのが分かり、おそらく管理をしているであろうミヅキさんがしっかりした人なのだというのが窺えた。
「こちらです」
案内された一室で痩せ細った男が床に就いていた。サクちゃんとは似ても似つかない。だが、何かを感じ取ったのか、隣りにいたサクちゃんが目を見開いた。
「サクちゃん? お父さん?」
「いや、分からん」
分からんのかい。
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