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ドグマ組騒動編
9.ドグマ組長のお見舞いに行こう(4)
しおりを挟む強いものには表向き従って追い落とす機会を狙い、弱いものは力で屈服させる。自分が利益を得られるなら法に触れることも厭わず、その悪事は脅してでも他人に擦り付ける。それでも咎められる事態になれば逃げ隠れする。
「極度の恐怖心を抱えていると、そういう人間に仕上がるって彼女は言ってました。誰も信用できないんですよ。怖ろしくて。要するにビビりなんです」
上手くやっているように見せたいだけの虚栄心の塊で、馬鹿にされることも許せないし、心を言い当てられるのも許せない。自分が上にいないと不安で我慢できない。だが上に立てば今度は下が怖ろしい。だから反抗心を削ぐ為に徹底的に痛めつけて分からせる。
「自分以外はすべて敵で糧。たとえ世話になった恩人であっても関係なく食い物にする奴だったそうっす」
俺は話を聞いていて、まさかな、と思った。サクちゃんとドグマさんの件もある。ここで繋がりが出てもおかしくはない。
「ごめん、ヤス君、その人の名前は分かる?」
「え? ええっと、確か、コガネイとか」
「ギイチ?」
「あ、そうっす! コガネイ・ギイチ! てか何で知ってるんすか?」
俺は溜め息を溢して俯く。やっぱりか。
「会ったことはある?」
「いや、話を聞いたことがあるだけっす」
「そっか。今度話すよ。話の腰折ってごめん。続けて」
「はぁ、まぁいいっすけど」
やや腑に落ちない様子で「話を戻しますが」とヤス君が言葉を続ける。
「ハンは自分を育ててくれたドグマ組長を信用できなかったんすよ。でも組長のような力は欲しいと望んだ。じゃあ一からそこを目指すかというと、そうじゃない。ドグマ組長の座を奪うことを考えたんでしょう。そっちの方が手っ取り早いっすから」
ヒューガさんが「なるほど」と、合点がいったという表情で頷き言葉を続ける。
「それで毒殺を思いついたってことですか。すぐに死ぬような毒を使わなかったのは、自分に疑いが向くのを避ける為というのは当然として、あとは責任を擦り付ける身代わりが必要だからですね?」
ヤス君が「ええ、そうだと思います」と言って頷く。すると、エドワードさんが顎に指を遣り、何度か細かく頷いて口を開いた。
「ふむ、そうか。ハンがドグマさんの仕事を手伝うようになったのは取り入る為だった、と。そこで経営に携わって、儲けがそれほどでもないと気づいた訳か」
「儲けを優先する方向に舵を切ったところ、孤児院は金儲けの道具にする奴隷の収容所と化したと。そのサツキ君という子が見せしめにされたという話、ハンが指示したと言われても確かに納得できますね」
「ドグマの野郎、飼い犬に手を噛まれるどころじゃねぇじゃねぇか」
サイガさんが深々と溜め息を吐く。
「すまねぇな、サクヤ。俺ぁ、ドグマの野郎に何度か忠告はしたんだが、あいつは『もう少し待ってくれ。俺が言って聞かせるから』ってそればっかりでな。昔の誼もあるもんで、仕方ねぇから呑んでやったが、俺も抗争やら縄張り争いなんかにならないようにするので手一杯だった。この通りだ。許してくれ」
サイガさんがサクちゃんに頭を下げる。ヒューガさんも示し合わせていたかのように頭を下げた。サクちゃんは慌てた様子で両手を前に突き出して振る。
「いや、あの、頭を上げてください。俺には何がなんだか。似てるとか、父親だとか言われても、まだ全然実感がないんですよ。三歳の頃に別れたっきりですし、会っても親子の再開って感じにはならないと思いますし」
「三歳か、そうか。サクヤ、お前ぇ、兄貴がいるだろう?」
「え? あ、はい」
「ドグマの野郎が言ってたんだ。『俺には国に残してきた息子が二人いる』ってな。いつまで経っても所帯を持たねぇから、嫁をとる気がねぇのかって聞いたら『一回失敗してるからいい』って言いやがったんだ。『自分は三人を不幸にしたから、もうこれ以上は重くて背負いきれん』だとよ。嘘だとばっかり思ってたぜ」
父さんが、とサクちゃんが呟き、静かに俯いた。
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