【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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ドグマ組騒動編

8.ドグマ組長のお見舞いに行こう(3)

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「ちょっといいっすかね?」

「おぇは、ええと」

「ヤスヒト・カタセって言います。まぁ、名前はどうでもいいんすよ。ドグマ組長が病に倒れたのはいつ頃の話なんですかね?」

 ヒューガさんから十年ほど前との返答があった。ヤス君は更に、その時期に何か起きなかったかを訊く。

 すると、国境沿いでラグナス帝国とのいざこざがあったことと、ハンが若頭として台頭し始めたという情報が向かいの席に座る三人から得られた。

「こっちの調べでは、若頭ってのはハンが勝手に名乗ってるだけです。組長から据えられたという話は一切ありません。ドグマ組という組の名も、ハンが脅しの為に使いだしたもののようですね。兄貴の話では、ドグマ組長が手掛けていたのは孤児院と娼館、あとは酒場と用心棒集団だけなんですよね?」

「ああ、最初はな。行くあてのないスラムのガキ共は孤児院に入れて、身売りしても構わねぇって女は娼館で雇い、男は酒場や娼館の用心棒ってな」

 ドグマ組長は、雇った者はすべて身綺麗にし、食事と住む場所を与えるだけでなく、病を患った者は療養させて最期まで面倒を見ていたとのこと。

「おまけに、手前てめぇも現場で働いてやがったよ。冒険者もしながらな。野郎らしいと思ったもんだぜ」

「聞いての通りだ。この間、俺がお前たちに話した内容には誤りがあった。賭博場と高利貸しは、ハンが勝手に始めたことらしい。それをドグマさんに被せていたというのが本当のところのようだ。隠れ蓑に利用していたのだろうな」

「あ、すんません。話の腰を折るようで悪いんすけど、繋がりました」

 向かいの三人が怪訝な顔をする。

「ヤスヒト、繋がったって何がだ?」

「順を追って話しますんで、落ち着いて聞いてください。俺たち渡り人は【無病息災】ってスキルを持ってるんで、病気になることはあり得ないんすよ」

「何だと⁉」

 エドワードさんが腰を上げようとするのを、ヒューガさんが手で制して止める。サイガさん共々、顔つきは険しい。

「続けますね。病気にはなりませんが、毒や術、呪いの類は普通に受けます。なので、ハンがドグマ組長を殺そうとしているとみてほぼ間違いないかと」

「チッ、あの野郎、恩を仇で返しやがって……!」

 サイガさんが舌打ちし、怒気を放つ。だがヤス君はまるで動じることなく、むしろ怒りを返すように手の平を向けて制し、話を続ける。

「ここからは推測が多くなるんで、話半分で聞いてもらいたいんすけど、その前に確認っす。ハンは、ドグマ組長が運営していた孤児院の出身者じゃないすか?」

「そうですが、それが何か?」

「俺にはサツキ君っていう弟のように思ってる子がいます。そのサツキ君に酷い仕打ちをしたのがこの街の孤児院にいたんですよ」

 拷問を実行した者はリンドウさんが天誅を食らわしたので既にこの世にいない。孤児院もその時点で取り締まられた。だが、どうにも気持ち悪さが拭えなかったとヤス君は言う。

「ずっと引っ掛かってたんすよ。本当に、そいつが異常者だっただけなのかって。実は何か目的があって、見せしめにするよう誰かに命令されてたんじゃないかって」

 サツキ君は孤児院で見せしめにされた、とのことだったが、それ以上の情報を俺は知らない。

 ヤス君はサツキ君と一緒に生活していたから、深く事情を知っているのかもしれない。話せなくとも筆談は可能なのだから。

「サツキ君に拷問が行われたのが約十年前です。賢い子なんで、かなり色々と記憶してました。彼から聞いた話だと、院長が代わったのがその辺りだったそうです」

 その頃から、世話をしてくれていた女性が来なくなった。そして食事の量が減り、暴力を振るわれるようになったらしい。

 ヒューガさんがヤス君に鋭い視線を向ける。
 
「そこにハンが関わっている、と?」

「はい。ハンが孤児院の出身者って聞いて間違いないと思いました。俺には元の世界に孤児院出身の友人がいたんですが、彼女の話だと、一緒に育った者の中に異端児がいたらしいんです。それがどうも、ハンの印象と重なるんですよ」
 
 
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