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ドグマ組騒動編

1.エドワード・マクレーンという男(1)

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 数日が過ぎ、秋一期二日。

 晴れ渡る空。昨日に引き続き今日も残暑が厳しい一日になりそうだと思いながら、俺は日課の早朝ジョギングを行っている。

 目的地はイノリノミヤ神社。結構な距離があるのでトレーニングに最適な上、ついでに参拝までできてしまうというお得なコース。貧乏性がゆえの選択だがまだまだこんなものではない。

 確かに参拝までできるのは嬉しいけどー、それって着いた後の話でしょー? ただ走るだけというのも勿体ないじゃなーい。

 という心の主婦の声に従い、そう仰られると思いまして、本日はこちらもお付けいたします。とばかりに走りながら最近のことを振り返って整理することにした。

 何やってんだろ俺……。まぁいいや。

 スパイキークラブの一件が終了した後、俺たちはエノーラさんに装備品の修理と染色を頼みに行った。

 俺は濃緑色、ヤス君は濃紺。サクちゃんは黒のまま。ようやく三連星を卒業できてホッとした次第。

 さてその後日、俺はパーティーメンバーと一緒に領主館を訪ねた。目的はエドワードさんとの会談。内容は、口に出すのを躊躇ってしまう改名のなされた、あの海辺の開拓村が今後どうなるかについて。

 正直なところ、俺にはエドワードさんの手紙の内容が信じられなかった。常識的に考えて、一領主が王国政府に楯突くことなどできる訳がないからだ。

 嘘ならまだしも、俺の浅慮の所為で引くに引けず、無茶をしているのだとしたら大変なことになる気がした。そういう疑念が生じて居ても立っても居られなくなり、謝罪する気満々で訪問してすぐそこをつついてみたところ……。

「うむ、まぁ別にお前たちになら話しても構わんか。実はな――」

 勿体ぶることもなく普段と変わらない調子で淡々と話すエドワードさんだったが、その内容は衝撃的なもので、俺たちは開拓村のこれからがどうなるかなど、どうでもよくなってしまった。

 エドワードさんの元の姓はクリス。なんとエドワードさんは、『関係ない』という理由で王位継承権を放棄したクリス王国第七王子だったのである。

 それが明かされてからは開拓村のことは脇に置き、エドワードさんへの質疑応答の運びになった。

「どうしてアルネスの街の領主をやってるんですか?」

「ああ、俺はこの街を拠点に活動していた元冒険者でな。とある事情から、世話になっていた先代領主に後を継いでくれと頼まれたんだ」

「その、先代領主というのは?」

「ガイラル・マクレーン卿。俺の母の兄、つまり伯父であり、ジオの父だ。そして俺の義父でもある。少し複雑だが、そういうことだ」

 エドワードさんによると、先王崩御以前に、とある事情とやらでガイラルさんから養子に来てくれと頼まれていたという。

 エドワードさんも実父である先王より伯父のガイラルさんを慕っていた為、力になれるのならばとそれを受け入れたとのこと。先王も『好きにしろ』と認め、臣籍降下による賜姓王族となった。

「じゃあ継承放棄のときの理由が『関係ない』っていうのは、既にマクレーン家に入ってて領主をやってたからってことですか?」

「正確には『既に王国繁栄の為に働く場を得た俺には関係のない話だ』と言ったんだがな。そうか。『関係ない』だけで噂となっているか」

 エドワードさんは落胆した様子を見せた。が、それは冗談だったようで「まぁ、本心はそれだけではなかったがな」と苦笑して話を続けた。

 関係ないと言った理由は、熊人である母が寵姫の中でも冷遇されていたことも関係していたそうだ。

 使用人が熊人の母に対し差別的な目を向けているように見えたことも理由の一つだとか。

 先王とも年に数回顔を合わせるくらいで、まともに話したこともなく、他の王子たちとは明らかに関わり方が違ったという。

「それゆえ俺は、父をよく知らんのだ」

 冷たくされたということはないし、毛嫌いされていた訳でもなかった。ただ、決して可愛がられはしなかった。と、エドワードさんは言う。

 エドワードさんも自分からは近づこうとしなかったし、互いに遠くから見ているだけの関係だったそうだ。

「あとは王城そのものの雰囲気か。母だけでなく、俺も不愉快な目を向けられたことが何度もあった。ゆえに無関係でいた方が良い気がしていたところはある。確実にな」
 
 
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