【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人

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海辺の開拓村編

25.他人の思いって急いでるとどうでもよくなる(2)

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 真面目すぎるんだよなぁ。

 多分、ギーという男は非常に分かりやすい裏切り方をしたのだろう。弱いうちは猫を被って過ごし、魂格が上がり能力も高くなったら豹変した、という具合に。

 聖人君子が極悪非道。そんな印象を与えたに違いない。

 たちの悪いやり口だ。

 最初からそうしようと企んでいたのか、それとも途中で魔が差したのか。いずれにせよ、人を傷つける勇気と恨まれる覚悟があったギーと俺とを一緒にされるのは心外だ。

 俺は傷つけないで済むのなら誰も傷つけたくはないし、魔物相手でも武器を振るうことに躊躇ためらいがある。だから戦闘も相手が比較的軽症で済むであろう体術を用いている。

 無論、自分や仲間の命の方が大事なので、それが脅かされるなら相手の命を奪うのもやむを得ないと思っている。だが多分、それでも俺はギリギリまで躊躇ちゅうちょするだろう。

 そんな俺が、目の前の二人に裏切りなどという無用な心配を抱かせるようなことは、本来であればなかったはずだ。

 なのに、それがギーの所為で……!

 早く帰りたいのに……!
 
 申し訳ないが、これ以上付き合ってはいられない。日が暮れてしまう勢いだ。かといってこの話題は「忙しいんで」と断ったのでは角が立つ類のものだ。俺の印象もすこぶる悪くなってしまう。

 こうなったらもう、アレをやるしか……!
 
「拙者は――」

「ソレ、コンド、キク。オレ、カエル。ウホウホ」

 思い詰めていた顔のスズランさんが一気にぽかんとする。

 よし! 効いた!

 真面目な奴が急に猩々しょうじょう化するという珍事に対応できる者などそうはいない。久々にやったが上手くいって良かった。そのまま話を続けられたら精神がおかしくなっていたところだ。

 俺はこの絶好の好機を逃すつもりはない。唖然呆然としているスズランさんから即座にリンドウさんへと向き直る。

「リンドウさん、術について教えてください。あと、話したいことがあるので、できればリンドウさんの部屋で。転移でお願いします」

「ん、お、おう、分かった」

 リンドウさんが俺に歩み寄り、肩に手を置く。

 一瞬、視界が暗転しリンドウさんの部屋に景色が変わる。どうやら部屋の隅に転移したようだと覚る。足元に木製のやたら幅が広くて長い盆がある。

 実際に使うのは初めてだが、和室で転移するリンドウさんの必須アイテム、履き物置だ。畳を汚さない配慮。お見事です。

 隣りにいるリンドウさんが履き物置きの上で下駄を脱ぎ、部屋に上がって和机の前で胡座を掻く。

 俺はそれを見てから土足で部屋に上がり、リンドウさんに驚いた顔を向けられる。

「あ、すいません。つい、いつもの癖で」

 しれっと嘘をきつつ履き物置きに戻り、ブーツを脱いでからリンドウさんの対面の座布団に正座する。

 空気を柔らかくしようとウケを狙ったのだが、まったく理解してもらえなかった。普通に引かれたが、そんなときもあるさ。猩々化も含めて、どうしてあんなことしちゃったかなーって数日間モヤモヤするだけだ。ドンマイ俺。

「さっきはすまんかったな」

「あ、いえ、そういうのもういいです。時間の無駄なんで」

「う、怒るわな、そりゃ」

「いえ、怒ってませんよ。もう事情が分かったからです。ギーはクズ。これで十分です。凄惨な過去や経緯、恨み辛みはまた皆で聞きに来ますのでまた今度ということで。では、術についてのお話をお願いします」

 俺は早口でそう言って頭を下げる。これから話をしなくてはいけないので猩々にはなれない。冷酷非情な印象を与えそうだがここはもう仕方がない。リンドウさんなら分かってくれるさ。

「あー、なんや、もしかせんでも、急いどったりする?」

 ほら! やっぱりね!

「はい。本来ならもう帰路に着きたかったところなんです」

「帰りは転移で送るで?」

 ハッ――⁉

「ウイナと見習い二人もヤスヒトとサクヤの顔見たいやろし、連れてこ思うとってんけど、その反応見ると、もうわしらとの関係は駄目になってもうたみたいやな。はぁ、しゃあないな。自業自得や」

「いやいやいや、違いますよ。是非お願いします、リンドウさん」

 実際は転移で帰るという発想が抜け落ちていただけだ。それに気づいたときのハッとした顔が「何言ってんだコイツ」という風に見えたのだと思う。

 拒絶を受けたと勘違いしていたらしいリンドウさんは、俺の返答を聞いた途端、目に見えて表情を明るくした。
 
 
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