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海辺の開拓村編
23.俺だけ知らない人の話題で盛り上がられる(2)
しおりを挟む胸に手を当て場にそぐわないことを考えている俺と違い、しっかりと空気を読んだのが優秀エルフのスミレさん。不安そうな顔をする子供たちを引き連れ、静かにリンドウ邸へと入っていく。
それを見計らったかのように、リンドウさんがコホンと軽く咳払いして口を開く。
「まぁ、そのことは置いといてやな、ユーゴにそろそろ術の常識について教えておいた方がええなと」
一旦言葉を区切り、リンドウさんが後頭部を掻く。その仕草が、どことなく申し訳なさそうに見える。
「今更やし、それをユーゴの術の歯止めにするっちゅうこっちの魂胆も見え見えやろうから、面白くないかもしらんけど、受け入れてほしい。って言うてみたところで、効果があるかどうかも分からんけどな」
俺は少し考える。話の流れから推測すると――。
「それは、布石を打つという認識でいいですかね?」
「せや。たとえそれが、気休めであったとしてもな」
うん、理解した。
おそらく、俺たちは二番目の規格外に成り得ると思われたのだろう。
スズランさんの言うギーという渡り人が最初の規格外で、手に負えない悪人になってしまったというところか。
「分かりました。術についてはこちらから訊きたいくらいでしたから、問題はありません。ただ、一つだけ確認をさせてください」
「確認? なんや?」
「その、ギーっていう人が、二人を脅かすような真似をしたんですね?」
「いや、それは――」
「違う。奴はおそらく大勢を脅かす」
スズランさんが俺を真っ直ぐに見つめる。
「異常な力を持ち、何をするかも分からん。本名はギイチ・コガネイ。マモリ見習い時代の兄弟子で、ユーゴ殿たちと何ら変わらず、真面目で穏やかな青年だった。それが――」
「やめや! そんなもんユーゴに何の関係もあらへんやろが!」
「黙れ! 関係が無いなどと嘘を言うな! 我々ではギーに勝てんからと、ユーゴ殿たちを利用しただろうが!」
「こっ、この阿呆! まだ利用言うほどのことしてへんわボケが!」
「しているだろうが! 既にお前の思惑通り、ユーゴ殿は凄まじい術を手にしている! もう手練手管で誘導するのはやめろ!」
「あのー、落ち着いてもらってもいいですか?」
そう声を掛けると、怒鳴り合っていた二人がピタリと言い争いを止め、こちらにバツの悪そうな顔を向けた。
「えー、話を纏めると、リンドウさんは、そのギイチ・コガネイとやらに俺たち三人をぶつけようとしていたってことで良いですかね?」
「そうだ」
スズランさんが頷く。リンドウさんは、もう観念したようで口を挟むことはなかった。不貞腐れたようにそっぽを向いている。
「正直に話そう。拙者は、リンドウのやり方には納得できなかった。誠実さに欠けるからだ。それゆえに、ユーゴ殿たちに術の常識を植え付けたいと考えていた」
だが、理由はもう一つある。と、スズランさんは続ける。
「怖ろしかったのだ。新たな化け物を生み出すことになるのではないかと。しかし、リンドウはギーを倒せ得るのは渡り人だけだと言ってな」
言いくるめた。スズランさんのことも、俺たちのことも。
「そして今日、ユーゴ殿の術を見て、拙者は気が気ではなくなった。リンドウは上手くやると言っていたが」
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